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【くにのあとさき】東京特派員・湯浅博 あいまい戦略に効用あり
米海軍第7艦隊の拠点、横須賀基地に米艦船が入るたびに、基地を担当する新聞記者が発するお決まりの質問がある。
「横須賀に入港する米艦船は核を搭載しているのか否か」
対する米海軍側の答えはいつも決まっていて、「核搭載の有無はイエスともノーともいわない」でおしまい。米海軍の広報官も書面で答えているから、かねて用意の文書なのである。
この「核がありそうな、なさそうな」というボンヤリが大事で、これをもって曖昧(あいまい)戦略という。おそらく半世紀の間、少しも変わらぬ米側の回答だろう。近年では、クリントン政権下の対台湾政策でも「曖昧戦略」という言葉を聞いた。中国が台湾侵攻をした際の対応について、当時のナイ国防次官補は「米軍が介入するともしないとも言わない」と述べていた。
この場合は、曖昧にすることで中国を刺激しないよう配慮し、同時に抑止力を維持する意図があった。含意は、米軍が応戦することになるから武力攻撃はやめておいた方がいいということである。
有名な曖昧戦略はイスラエルの政策で、核兵器について「持っているともいないとも言わない」というだけで、アラブの敵対勢力はヘタに手出しできないと思いとどまる。おかげで、イスラエルは核開発が阻止されるNPT(核拡散防止条約)に入らずにすみ、世界に対しては「核があるから怖い」と思わせることができた。
実のところ、北朝鮮のような犯罪国家が核を持つと、この曖昧戦略では心もとない。それでも日本には、「唯一の被爆国」という微妙な感情があるから、米国といえども核搭載の明言を避ける曖昧戦略に終始する。
ところが、日米間の「核持ち込み密約」に対する政府答弁では、相変わらず「存在しない」と完全否定してしまう。この場合は曖昧戦略ではなく、国内向けに「核はなし」とごまかすことになる。
この政府答弁を素直に受けとれば、せっかくの核抑止力をぶち壊すことにならないか。逆に、河村建夫官房長官のいう「事前協議がない以上は核持ち込みがない」というのは不誠実である。
元外務次官、村田良平氏の昨年の著作『村田良平回想録』や最近の発言は、そういう不誠実な政府見解はやめにして、まともな核論議をすべきではないかとの提起である。一部メディアは次官経験者の村田氏による「核兵器の持ち込みについて日米間に密約があった」との発言だけを取りあげ、「政府のウソ」と矮小(わいしょう)化した。
しかし、誰もが政府見解を信じていないだろうから、実は抑止力がそのまま働いているという皮肉を見落としている。この密約は1960年代終わりの沖縄返還交渉で、佐藤栄作首相の密使だった京都産業大学の若泉敬教授(96年に死去)が、著書『他策ナカリシヲ信ゼムト欲ス』(94年刊)の中ですでに明らかにしている。
むしろ問題は、佐藤首相が68年の施政方針演説で公約した非核三原則にある。核を「作らず、持たず」に加え、「持ち込ませず」を入れて柔軟性がなくなってしまった。いまや米艦船だけでなく、中国、ロシアの核搭載艦までが航行しているから、「持ち込ませず」がいかに時代遅れであることか。
やがて、北朝鮮が「核保有国」をかさに荒っぽい行動をするだろう。日本が「独自核」を持てないのなら、せめて三原則を棚上げして曖昧戦略に舵(かじ)を切ろう。