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【古森義久の北京奥運考】「一つの世界」の行方 (1/2ページ)
灰色のモヤに包まれた北京の街を埋めつくす「一つの世界、一つの夢」の真紅の垂れ幕は、壮大な反語なのかと、つい思った。開会式前から競技開始までの3日間、北京での実体験は世界も、夢も、決して一つではないと痛感させられる連続だったからだ。
まず直行した外国人用アパート式ホテルでパスポートを問答無用で取り上げられた。警察に「臨時居住」を即時、登録するためだという。ホテルの部屋のインターネット回線の接続も尋常ではなかった。自分のパソコンに多数の通告情報をインプットし、さらに先方にこちらの情報を送らねばならない。
そのうえで1日ほど使ったパソコンの画面には「スパイウエア探知」という黄色い警告が出始めた。専門家に調べてもらうと、短時間のうちに驚くほど多数のウイルス類その他に侵入されており、このままだと深刻な実害を受けるという。通信を即刻、別の方法に切り替えた。
北京五輪の事前報道にあたった各国報道陣からは中国当局が米欧の大手のメディアやチベット、法輪功などのウェブサイトへのアクセスを阻んでいるという抗議が起きていた。自分で試みてもなるほど、アクセスできない。中国でのこうしたインターネット規制についての英BBCテレビのリポートをみていたら、規制の批判部分でピッという音とともに音声が途切れ、映像が乱れた。これまた明らかに当局の「検閲」だった。
単にオリンピックの報道のために入国した外国人記者たちにもこんな制約や監視のタガが二重三重に課される。米紙の報道では北京市内を走る7万台ほどのタクシーの大多数には当局によりGPS(衛星利用測位システム)に基づく車内盗聴マイクが設置されたという。まさにジョージ・オーウェルが未来小説「1984年」で描いた全体主義国家を管理する「ビッグ・ブラザー」は健在なのである。その運営には気の遠くなるほど膨大な国家の資源や人材が投入される。