ニュース: 国際 RSS feed
【土・日曜日に書く】中国総局・福島香織 ナマズの上のおから都市
≪100本以上の断層≫
「これ、見てください」と、都市環境コンサルタントの友人が1枚の地図を広げてくれた。中国の地震帯と過去の地震発生歴を示す地震地図である。日本や台湾が断層だらけなのは知っていたが、中国にこれほど無数の断層が走っているとは驚きだった。中国の主要活断層は約25本で、それら以外にも実は広東省や浙江省にも性質が分からない無名の断層が走っており、合計100本以上はある。
北京の住民はなぜか、直下型地震は来ないと信じ込んでいる。真下には、1976年に河北省唐山市を震源地として、マグニチュード(M)7・8の直下型、唐山地震を引き起こした「燕山地震帯」があるほか、河北平原地震帯と呼ばれる地震多発地域が広がるにもかかわらずだ。過去の地震履歴をみれば、北京を震源地としたM6以上の直下型地震が6回あり、今回の四川大地震と同規模のM8の直下型地震に襲われてもいる。
1679年(清康煕18年)9月2日昼。燕山南麓(なんろく)に位置する北京・平谷を震源地に大地震が発生した。このときの様子を清の文筆家、葉夢珠が『閲世編』の中でこう表現している。「雷のような音が轟(とどろ)き、人々はあわてふためき、白昼なのに(粉塵(ふんじん)で)夜のように暗くなり、門、建物が無数に倒壊した」「文武職官、後宮の女官ら死者が甚だしかった」…。紫禁城の剛健な城壁と31の宮殿が倒壊、康煕帝は皇太子を伴って、“避難テント”暮らしを余儀なくされたという。人口密度が低い時代に、死者が平谷だけでも1万人を超え、北京の城壁内では1万2793軒の建物が全壊、1万8028軒の建物が半壊し、死者が485人に上ったとの統計が残っている。
北京を震源地とした直下型地震は過去、100〜400年間に1度の周期で発生している。北京直下型地震は、震源地がずれた唐山地震を別にすれば、300年この方、発生していない。先の友人は「つまり、北京では今、大地震がいつ起きてもおかしくないということだ」としつつも、「しかし、北京の都市建設をみれば、地震対策がなっていない」と話した。
≪北京大地震の悪夢≫
北京は長年の地下水のくみ上げ過ぎで地盤が緩い。地下鉄工事中に天井に当たる道路が落ちる陥没事故が一度ならず起きている。そのうえ、高層ビルはデザイン優先の不安定な建築が多く、北京市建設管理当局者自身、「一部の建築物は、地震がない外国の、耐震設計経験に乏しい設計士によるものだ」と、現行の耐震基準を大幅に逸脱している点を認めている。
五輪施設をはじめ最近のビルはM8対応の耐震性を備えている、という建前ながら、1990年のアジア大会施設建設に関与したある人物はこう漏らした。「施設建設の際、現場では国から安く配給されたセメントを市場に流して、その差額をもうけようとした。だが、竣工(しゅんこう)後の建築基準検査で手抜き工事が発覚するのを防ぐため、検査当局にワイロを渡さなければならなかったから、結局何のもうけにもならず、設計基準に満たない“おから建築物”ができあがっただけだ」と。
出稼ぎ作業員が五輪メーンスタジアム「鳥の巣」の建設現場から鉄骨を持ち出しているのを目撃したといった話を聞くにつけ、20年昔の施工管理のずさんさを笑い飛ばすわけにはいかなくなるのだ。
ある不動産業者は真顔で言う。「99年の建国50周年記念日前に急いで建てられたホテルや、マンション、オフィスビルは張りぼてだ。今、建て替えないと危ない」
五輪に間に合わせようと、中身ができていないうちに表面タイルを張り付けて完成したように見せかけているビル群は、10年前の繰り返しでないと誰が言えるのだろうか。こんな状況でM8級地震が起きれば、想像を絶する悪夢だ。
≪都市計画再考を≫
北京市は今年、98年以来、増加し続けていた不動産取引量と価格がともに下落に転じたとし、ついに不動産バブル崩壊か、という緊張が銀行や業界に走っている。四川大地震で無数の建築物がぺしゃんこになった様子を目の当たりにした人々が北京の不動産に抱いた不信感も、一因といわれている。
五輪開催を目前に控え、奇跡の経済発展の栄華を謳歌(おうか)している北京は、実は見かけだけの発展をし、目先の利益を優先し、欲望のままに肥大して、肝心の中身がすかすかだ、と友人は言う。そんな“おから都市”で、はじけるべきバブルはさっさとはじけた方がいい。その痛みを覚えているうちに、来るべき災害に備えた都市計画を再考してはどうか。街を歩きながら、バベルの塔のように伸びる建築中の摩天楼や世界一の建築費を誇る不安定な形のビルを見上げるたびに、そう思う。(ふくしま かおり)