ニュース: 国際 RSS feed
【ちゃいな.com】中国総局長・伊藤正 民族主義を克服できるか
「こんな時に行くことないでしょ」。5月の連休中に北京にやってきた友人は「妻から嫌みを言われてね」とぼやいた。冷凍ギョーザ事件、チベット騒乱、五輪聖火リレーのトラブルで、日本人の中国イメージは地に落ち、ゴールデンウイーク中の中国への観光客は昨年より6割も減ったとか。
影響は世界中に及びつつある。大気汚染や食の安全など旧来の問題よりも、治安への不安が原因と関係業者は言う。チベット事件だけではない。3月初旬には、ウイグル人女性がガソリンで航空機に放火しようとした事件があり、今月初めには上海で公共バスが炎上、二十数人が死傷した。
北京五輪を3カ月後に控え、中国当局は、治安確保に全力を挙げだした。4月から機内への液体物やライターの持ち込みを厳禁、5月9日からは北京の一部地下鉄駅でペットボトルなど安全検査を始めた。いずれ全駅に拡大し、公共バスも対象になるらしい。
以前から安全検査を実施している劇場や体育館などに加え、北京の中心部では通行人の持ち物検査も始まった。五輪前に不祥事を封殺する警備強化は、逆に中国の社会不安を印象づけ、外国人の不安をかき立てる。五輪ではどんなことになるのか。
「この時期には、いつも五輪施設などの準備状況が取材対象だが、今回はこの国で五輪を開催する是非を考えさせられた」
そう話したのは、4月中旬に訪中したベテラン日本人運動記者。訪中時、海外の聖火リレーで中国の若者らの「愛国主義」が吹き荒れ、中国各地で仏系スーパー「カルフール」への抗議行動が発生。「反CNN」サイトが開設され、欧米のチベット報道などを攻撃、外国人記者への嫌がらせも続いた。理由はともあれ排外的な愛国主義は、五輪精神とは相いれないとその記者は感じたのだ。
中国のメディアの多くも、また外務省も若者の行動を基本的に支持した。例えば外務省報道官は4月15日、カルフール攻撃は「中国民衆の表現には原因があり、フランスこそ反省すべきだ。中国公民は法に基づき、合理的訴えをしている」と擁護した。
中国社会科学院の徐友漁研究員は中国紙「南方都市報」(5月11日付)で、五輪愛国運動を「ネット民族主義」と呼び、国際化の象徴である五輪を台無しにすると批判した。
同様の意見は改革派知識人に多いが、それに対し新左派系の知識人は総じて若者の行動を欧米の支配と価値観に反撃する愛国行動として支持している。
国内の聖火リレーで愛国主義が盛り上がる中、胡錦濤国家主席の訪日は、中国国内に波紋を広げた。中国メディアによる日中の新時代を宣伝する大報道に、新左派系は沈黙し、反日色の強い人民日報の掲示板「強国論壇」には、胡氏の訪日に触れずに「ガス田開発では譲歩するな」「ギョーザ事件は日本の仕業」などの「抵抗」の書き込みが散見される程度だ。
胡氏がこの時期にあえて訪日したことは、対日関係の発展だけでなく、改革・開放に反対する国内民族主義を押さえ込む狙いもあったに違いない。今後、胡氏が日中間の懸案を解決する指導力を発揮できれば、日本人の対中感情は改善されるだろう。それは北京五輪の成功にも不可欠だ。(いとう・ただし)

