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【土・日曜日に書く】中国総局・福島香織 ネットの自由と反CNN
◆おバカでいてほしい?
♪何を苦しんで知恵を絞ってウソを本当にしようとするの/絶対にCNNにならないで/私はむしろ/ただ単純でおバカなあなたでいてほしいの…
中国のインターネット上でこんな歌がはやっている。甘い声、しっとりしたメロディーながら、歌詞はチベット騒乱をめぐる米テレビ、CNNの「歪曲(わいきょく)報道」を批判する。ネット歌手、慕容萱さんが歌う「CNNになり過ぎないで」だ。慕さんは、社会事件などをテーマにした時事歌謡曲を数多く発表、ネットでは知られた存在だ。今回の反CNNソングで、さらに人気が出て今や、憤青(フンチン)(憤怒する青年)と呼ばれる愛国主義青年たちのアイドルである。
先日、北京の日本料理屋で、この“時のひと”とばったり出くわした。さぞかし、がちがちの愛国主義者か党員だろうと思っていたら、素直な感じのかわいいお嬢さんである。「実はチベットには入ったこともないし、何も知らないの。ただ、ネットでCNNの歪曲写真をみて曲が浮かんだ。報道に必要なのは真実だと言いたかった…」。本音なのか、はたまた処世術なのか、とぼけた口ぶりだ。でも、「おバカでいてほしい」というフレーズは、聴きようによっては、痛烈な皮肉にも響く。
◆情報統制の綻び
3月14日、チベット自治区の区都、ラサで起きたチベット騒乱。いったい何がどうなって、こんな事態に至ったのか。何人の犠牲者が出たのか。核心部分を霧の中に置き去りにしたまま、中国のインターネット上では、CNNをはじめ欧米メディアへの非難に沸き、反CNN歌までヒットした。
党の宣伝である中国公式報道にも隠蔽(いんぺい)や歪曲はかつてあっただろう、と反論したいところではあるが、考えてみると、中国も、それだけ多くの若者がネットでCNNやBBCの報道に接する時代になったということでもある。当局に都合の悪い情報を制限する厳しい統制が敷かれる一方で、実は若いネチズン(ネット市民)の多くが海外のニュースサイトから結構な量の情報を仕入れているのだ。
チベット騒乱発生当初、中国国内ではCNNやBBCなどのインターネットのニュースサイトや海外動画投稿サイトのYouTubeへのアクセスもブロックされるなど、ほぼ完璧(かんぺき)な情報統制が行われていた。そんな状況下で、CNNサイトの報道写真に恣意(しい)的なトリミングがある、と最初に指摘したのは、海外の華人留学生だったという。こうした指摘が次々とネットの掲示板に書き込まれ、参考動画や写真がネット上に出回って瞬く間に国内に広がり、国内でも反CNNサイトが立ち上がった。これはある意味、報道統制の綻(ほころ)びでもあるだろう。1989年当時の中国では、チベットのような辺境の地で発生した事件に関する海外報道など、ほとんど国民の関知するところではなかった。
◆世論の主導権を握れ
中国のネット人口はすでに米国を抜いて、世界最大規模の2億2100万人に達した。そこに流れる膨大な情報は、世界最強のネット統制力を誇る中国といえども、管理しきれない。そうして緩んできた統制のすき間、つまりネットの自由空間があったからこそ、反CNN世論も登場した。
反CNN世論の中身は確かに、バランスが極めて悪い。あれだけの海外ニュースに触れながら、誰ひとり、国内報道と比較して、中国と欧米の報道に表れるダライ・ラマ14世の人物像の違いや、報道の観点の差を冷静に比較検討して真実を追求しようとはしていないのは惜しい。南方都市報論説委員の長平氏が反CNN世論に対し、「中国の報道統制への批判的視点も必要ではないか」との論評を英紙フィナンシャル・タイムズ(中国語の電子版、4月3日)に発表したところ、それは「売国奴の意見」として猛非難にさらされた。
共産党中央政治局は昨年1月の学習会で、ネットを積極活用してネット世論の主導権を党が掌握すべきだと訴えた。ネット統制に限界が見えてきた中で党の宣伝、都合のよい情報をより積極的に巧妙に流すことでネット世論を誘導しよう、というわけだ。反CNN世論は、その成功例かもしれない。
大量に流れる情報の中から、それらを吟味し、自ら判断して世論誘導のわなから逃れることは、ネット統制をかいくぐること以上に難しそうだ。だが、それも報道と言論の自由が押し広げられてゆく中で鍛えられてゆくのではないか。
チベット騒乱を機にネット上で展開されるさまざまな動きに、そんなかすかな予兆を感じた。いずれ、慕さんには、世論の主導権を自分たちで握ることができる「おバカでないあなたでいてほしい」と、歌ってほしいものだと思う。
(ふくしま かおり)