MSN Japanのニュースサイトへようこそ。ここはニュース記事全文ページです。

【トウ小平秘録】(151)第6部「先富論」の遺産 政府VS.人民

2008.2.20 03:14
このニュースのトピックストウ小平秘録
江西省の観光地・井崗山で、「毛沢東パネル」と並んで記念撮影する市民ら。格差拡大への不満が毛沢東時代への懐旧を生む…=2007年7月(矢板明夫撮影)江西省の観光地・井崗山で、「毛沢東パネル」と並んで記念撮影する市民ら。格差拡大への不満が毛沢東時代への懐旧を生む…=2007年7月(矢板明夫撮影)

 ■ネット世論は圧力だ

 中国の国別対外貿易額、同投資受け入れ額ともベスト3は、米国、日本、韓国だ(香港、台湾を除く)。

 前回まで、中国とこの3国との関係を書いたのは、トウ小平(しょうへい)氏の対外路線が経済発展を最優先にしてきた好例だからだ。政治問題は経済発展の障害にならず、時にはそれを促す道具になった。

 1992年の第14回党大会で「社会主義市場経済」を打ち出し、対外開放と国内改革を加速した結果、中国経済は年平均10%近い急成長を続けた。しかし、数年前から改革・開放の「反思」(見直し)論が台頭した。さまざまな問題が噴出、矛盾が深刻化したためだ。

 昨年末、共産党の幹部教育機関である中央党学校と政府シンクタンクの中国社会科学院がそれぞれ「中国社会情勢の分析と予測」を発表した。その中に、最も深刻な社会問題は何かを問うアンケート結果がある。

 在校生を対象にした党学校の調査では、初めて「社会治安」(36・6%)がトップになった。例年トップの収入格差(23・2%)は2位、腐敗問題(8・0%)は3位だった。地方幹部対象の社会科学院の調査では、収入格差、腐敗が1、2位を占めている。

 両調査で上位を占めた他の問題は、社会風紀、失業問題、地域格差、医療問題、物価、農民負担、教育の不平等、環境破壊などで、そのどれもが改革・開放後に生まれ、深刻化したもので、解決は容易ではない。

 いずれの調査の選択項目にもないが、一般国民を対象にしたら「社会の不公平」が上位になるだろう。国民の間に普遍的にある不満は「不公平」という言葉で表せるからだ。

 1年前の本連載「プロローグ」で、トウ小平氏が93年9月、弟のトウ墾(こん)氏に「両極分化」への懸念を表したことを紹介した。トウ氏はそれ以前も、貧富の格差が広がり、両極分化が起これば、改革・開放は失敗だと何度か語っていた。

 現状は両極分化どころか、社会が階層化し多極分化が進み、しかも固定化した。下層階層が上層階層に入るチャンスはほとんどない。その結果、階層間の矛盾が激化し、下級階層ほど社会に対し強い不公平感を抱く。

 中央、地方のエリート官僚ら中央党学校の在校生が最も深刻な社会問題に「社会治安」を選んだのは、格差とか腐敗といった個々の問題を超え、もろもろの矛盾激化の総合的結果として治安悪化を招いた、との認識に基づいていよう。

 最近、日本人の女性留学生が北京市中心部で暴漢に襲われ重傷を負う事件があったが、周辺にいた中国人は見て見ぬふりだったという。

 こうした事件は中国人社会では頻繁に発生しており、金持ち階層がボディーガードを雇うのが当たり前になっている。

 毛沢東時代にはドアにカギのない家が少なくなかった。特権階級はむろんいたが、一般庶民はみな貧しくて格差はなく、教育費や医療費を心配する必要はなかった。それは毛沢東時代への懐旧を生み、現状批判を広げる要因になっている。

 改革・開放の「反思」論が起こったのも、経済発展のツケが社会不安になるまで深刻になった結果だ。改革・開放の肯定派も否定派も、それぞれ主張には幅があるものの、改革の必要では一致している。

 今年1月、改革・開放に否定的な新左派の拠点の一つ「烏有之郷」書店主催の連続講座が北京大学構内で開かれた。中国社会科学院の左大培(さだいばい)研究員らが90年代以来の諸改革を「資本主義化」と決めつけ、現在の諸矛盾の根源と批判した。

 新左派学者らが批判する改革には、江沢民時代の税制、金融、企業改革から、教育・住宅・医療改革まで多岐にわたる。特に講座の中で注目されたのは、当代中国研究所の孫学文(そんがくぶん)研究員が外資導入を柱にした対外開放を批判したことだった。

 「78年以来の29年間に中国が利用した外資は8826億ドル余で、累計外資企業数は61万社。対外開放企業の上位5社は外資企業。2006年、外資企業の輸出入は912億ドルの出超で、300億ドル前後の利潤を上げた」

 孫氏はそうした数字を挙げながら、外資導入の問題点として(1)開発向け転用農地の激増(2)中国の製造業や対外貿易への支配力強化(3)沿海部と内陸部の格差拡大など10点を指摘した。

 新左派学者の間では、対外開放は「中国を植民地化し、労働力を搾取、民族産業を破壊している」との見方が多い。

 これを含め新左派の改革批判は厳しいが、ではどのように改革するかとなると、議論はまちまちだ。さすがに毛沢東時代への完全復帰論は少ないが、計画経済性の強化、国有資産の売却や土地私有化の禁止、農業の集団化、外資規制など、社会主義の原点に戻り、政策を見直せとする。

 1980年代と違って、胡錦濤政権指導部は、改革派一色で新左派の主張を取り入れる気配はない。

 ただ新左派の議論は、社会問題に関心の強いネット世代の圧倒的な支持を受け、ネット世論を重視する政権への圧力になっている。

 「成長第一主義を正そうとしても、例えば土地開発などで肥えた既得権層の抵抗で成長は止まらない。そのため矛盾は激化し、各地で紛争が続発、次第に政府対人民の対立構図ができつつある」(某社会評論家)

 新左派は共産党の指導を肯定、政治体制改革を主張する自由主義派と真っ向から対立する。それは、次回に書く。(伊藤正)

このニュースの写真

江西省の観光地・井崗山で、「毛沢東パネル」と並んで記念撮影する市民ら。格差拡大への不満が毛沢東時代への懐旧を生む…=2007年7月(矢板明夫撮影)

関連トピックス

PR
PR

PR

イザ!SANSPO.COMZAKZAKFuji Sankei BusinessiSANKEI EXPRESS
Copyright 2008 The Sankei Shimbun & Sankei Digital
このページ上に表示されるニュースの見出しおよび記事内容、あるいはリンク先の記事内容は MSN およびマイクロソフトの見解を反映するものではありません。
掲載されている記事・写真などコンテンツの無断転載を禁じます。