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【記者ブログ】中国ポップスの父、黎錦暉氏について 福島香織 (2/4ページ)

2007.11.12 01:07
このニュースのトピックス言語・語学

■当時、中国は西洋文化のシャワーを浴びながらもそれを消化できずにおり、現代音楽は外国の輸入ものばかりだった。たとえば、小学生たちは日本の国歌の旋律で「孔子歌」などを歌っていたそうだ。黎錦暉は当時「国語運動」を推進していた長兄の言語学者・黎錦煕の影響も受け、中国語によるオリジナルの歌謡を創りたいと考えていた。蔡はそんな黎に、まず童謡を作ることを薦めたという。ちなみ黎家の8兄弟はいずれも各界で業績を残しており、黎氏8駿と呼ばれている。

■国民政府中華書局の職を得て上海に来た黎は、1921年、最初の童謡歌劇「すずめと子供」を創作。1927年まで12の童謡歌劇と24の児童歌曲を作曲・作詞した。彼が編集長をつとめる児童芸術雑誌「小朋友」は、おそらく中国初の子供向け芸術誌だろう。この雑誌を通じて発表しつづけた童謡は、当時、農村の子供たちまで愛唱していたそうだ。

■当時の上海は、外国政府が作る「租界」を通じて外国の文化・芸術が流入し、中国で最も音楽・芸術ビジネスが発展していた地域だった。童謡で名をなした黎は、この印税(原稿料)をつかってかねてからの夢を実現しようとする。それが本土オリジナルの音楽・ショービジネスの確立だった。かれは私財をつぎ込んで、1927年中国初の職業歌手・ダンサー養成学校「中華歌舞専門学校」を創設する。それまで中国ではダンサー、歌手は、「売芸」とよばれ、乞食に毛の生えたような扱いだった。学校創設は、その偏見を打ち破り、中国で本格的なプロ歌手、エンタテイナーを養成する拠点となることを目指した。

■学校は学費免除、全寮制で生活費も免除。外国の舞踊や歌唱の教師を招くのも、黎氏が自分の原稿料でまかなった。第1期の学生は約30人で、その中には黎の娘の黎明暉もいた。「毛毛雨」は、最初、この学校で学ぶ者のために作られた曲だ。

■この学校創設について、黎錦暉の長男で現在、新疆ウイグル自治区ウルムチ市でピアノ教師をしている黎沢寧氏がメールインタビューでこう語っている。

「父は聡明で才知は群を抜いていました。彼がまじめに努力して取り組んだことは、音楽、舞踊、文学、出版などにおいてすべて歴史的足跡を残しました。ただひとつ欠点があるとすれば、善良すぎた。心が優しすぎた。私など父から怒鳴られたことがありませんでした。善良で優しすぎる人にビジネスは向きませんね。印税、原稿料は相当稼いだはずですが、一文も残りませんでした。全部人材育成につぎ込んでしまって。でも、お金は残りませんでしたが、多くのスター、才能を生み出しましたよ。周セン、聶耳、王人美、黎莉莉、白虹、黎錦光…」。黎莉莉は、黎錦暉の妹で当時の歌姫、黎錦光は弟で、後に名曲「夜来香」を作曲する音楽家だ。

■才能はあったが、ビジネスマンとしてはいまいちだった黎の学校はすぐに経営難と

なった。また蒋介石の北伐成功により、租界内で、「青天白日旗(国民党旗)」を掲げる学校の運営が困難になってきたこともあり、学校は「中華歌舞団」と名前を変えてショービジネス活動に専念、しかし、29年初め、巡回公演先のジャカルタで金がつきて解散となった。

■公演先のジャカルタから帰国する旅費をつくるため、黎はその巡回公演で歌った「毛毛雨」などの曲を「家庭愛情歌曲」としてレコード出版した。このレコードによって、中国最初の“ポップス“「毛毛雨」が一世風靡する大流行歌となる。このレコードには、当時「新型愛情歌曲」とよばれた「毛毛雨」のほか、シンガポールで書いた中国初のジャズ歌謡「特別快車」など、のちにテレサ・テンも歌った曲が含まれている。特に「毛毛雨」は、これまでの封建的呪縛から解き放たれた自由な女性の恋愛感情が歌い込まれており、老若男女の共感を呼んだ。繁華街のダンスホールやカフェだけでなく、石庫門がならぶ小さな路地からも、郊外の農家からもこの歌を口ずさむ声がながれ、まさしく「時代の歌」となった。彼の曲はレコードを出せばすべてメガヒット、上海の百代、勝利(ビクター)、麗歌などの大手レコード会社は当時、会社のロビーに黎の肖像画を飾っていたほどだという。

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