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【土・日曜日に書く】中国総局・福島香織 さまよえる中国式「民主」

2007.11.11 03:01
このニュースのトピックス中国

 ≪デモクラシーと違う?≫

 先月、北京で5年に1度の大政治イベントが繰り広げられた。その中国共産党大会(第17回)で、胡錦濤総書記が読み上げた政治報告には、「民主」という文言がじつに60回余りも登場した。社会主義民主、民主的立法、民主的監督…。 この「民主」、報告書の英語版では「デモクラシー」と翻訳されていたが、概念がちょっと違うようだ。

 中国式の「民主」ってなんだろうと、ふと思ったのは、半世紀前に民主政治を目指しながら、毛沢東に排斥され、挫折した中国民主同盟第一副主席、章伯鈞(しょうはくきん)氏と彼をめぐる人々の回顧録『往事不如煙』の邦訳版『嵐を生きた中国知識人』(中国書店)が最近出版され、それを読んだばかりだったせいもある。著者は章伯鈞氏の末娘、章詒和(いわ)さん(65)だ。

 先日、邦訳版出版のお祝いを伝えようと詒和さんに会った。そのとき「胡錦濤氏の民主と、お父上(伯鈞氏)の言っていた民主は違いますよね」と、聞いた。

 詒和さんはちょっと笑って「父ら知識人たちが主張した民主、庶民の望む民主、党大会の政治報告で書かれた民主、実際に胡錦濤政権が行うことができる民主。中国には4つの民主があって、全部意味が違うし、その違いは結構大きいわ」と答えた。

 ≪右派のレッテル≫

 章伯鈞氏は、新中国建国以前からの民主諸党派のリーダーの一人であり、新中国建国にも貢献して交通相も務めたことのある政治家だ。57年5月には、共産党独裁を防ぐため共産党外組織を「政治設計院」として政治参加させる一種の多党制構想を提言した。

 毛沢東は56年、党と異なる意見や理論を自由に発表させ論争させるべきだと「百花斉放・百家争鳴」を呼びかけ、57年2月には党外人士からの党批判を求める「整風運動への指示」を出した。章氏はそれに応え、社会主義体制のなかで行える民主政治システムを訴えたのだった。

 しかし57年6月8日、毛沢東は、この呼びかけに応じて「党批判」を行った知識人・文化人をやり玉にあげる「反右派闘争」を開始。章氏の考えは「共産党と社会主義体制への攻撃」とされ、“筆頭右派”のレッテルを張られて失脚した。

 反右派闘争では55万人の知識人・文化人が失脚、迫害を受け、章氏を含む5人がいまだ名誉を回復されていない。詒和さん自身も文化大革命時代に「反革命罪」で10年間投獄され、今も当局の監視対象だ。著書はすべて禁書扱い、海外に出るのもままならぬ状況である。

 「知識人の民主」が50年前に挫折して以来、共産党独裁による長き厄災が始まった。大躍進、文化大革命、天安門事件…。国民の不満を緩和しようと経済の開放を行ったはいいが、党の独裁が維持されたままなので党幹部が肥太り、庶民が搾取され、人々の求める民主的権利が踏みにじられた。失業、貧困、そして迫害・排斥。不満は暴動、抗議活動の頻発という形で表面化してきている。

 ≪エリツィン待望論≫

 今回の党大会では、こういった社会矛盾を緩和すべく民生重視を掲げ、党内の相互監督で汚職や腐敗を防ぎ、自浄を促す「党内民主」を強調した。しかし、それすら胡錦濤政権が実施できる「民主」ではない、と詒和さんはいう。

 「中国のように、国家の利益を一政党がかくも独占している例は世界中どこにもない。利益を守るために共産党は軍、大学、メディアの掌握に全力を傾けてきた。その利益を今更自ら放棄するまねなどできますか?」

 胡錦濤政権が目下できそうなのは、経済というパンと五輪など国家イベントというサーカスによる国民の歓心への迎合を「民主」と名付けるくらいだろう。

 では、中国に「第5の民主」はあり得ないのだろうか。安徽省政治協商常務委員の汪兆鈞(おうちょうきん)氏が胡錦濤総書記あてにインターネット上で最近発表した公開状がかなり話題になっている。

 「中国にエリツィンが必要だ。胡錦濤氏ら党中央指導層からエリツィンが出ないなら、地方、民衆からエリツィンが登場するだろう…」

 旧ソ連を解体し、民主主義を推進した一方で経済を破綻(はたん)させた前ロシア大統領には否定的な評価もあろうが、思い切った改革者の登場を待つ声は確かにある。「胡錦濤氏は政治の過渡期に現れた一人物にすぎない。だからもう5年待ちましょう。それからもう5年…」と詒和さんはつぶやく。半世紀余、さまよい続けている中国式民主の理想は、いつ、実現するのだろうか。(ふくしま かおり)

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