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【トウ小平秘録】(52)第2部「南巡講話」 骨格は武昌駅で

2007.5.6 08:30
このニュースのトピックストウ小平秘録

 1992年初め、87歳のトウ小平(しょうへい)氏が南方視察を敢行、厳しく保守派を批判する講話をし、89年6月の天安門事件で停滞した改革・開放を再び軌道に乗せたことは、本連載第2部の初めに書いた。

 講話は南巡講話ないし南方講話と呼ばれ、「トウ小平文選」第3巻(93年刊行)に、「武昌、深セン、珠海、上海などでの談話の要点」のタイトルで収録されている。各地での談話を内容別に編集したもので、個々の発言の場所や日時は示されていない。

 また「要点」としたのは、談話の一部が削除されたためとみられる。保守派指導者を名指し批判した部分などだ。本稿では、トウ氏の視察の足跡をたどりながら、講話が行われた状況や目的を探っていく。

 トウ小平氏が孫を含めた家族全員と事務所スタッフらを伴い、専用列車で北京を出発したのは1月17日午後。最初の目的地は広東省深センだった。

 広東省党委員会には、トウ氏の秘書が「休息のため」と年初めに通知し、受け入れ態勢を要請していたが、沿線の地方政府に通知はなかった。途中どこにも立ち寄らず、深センに直行するはずだった。

 専用列車は18日午前10時31分、湖北省都武漢市の中心駅、武昌に着く。ホームには同省の関広富(かんこうふ)党委書記(肩書は当時、以下同)と郭樹言(かくじゅげん)省長、武漢市の銭運録(せんうんろく)党委書記らが出迎えていた。

 前夜、トウ氏秘書が専用列車から電話し、「トウ小平同志が話したいことがある」と駅で待つよう伝えていた。トウ氏が車中で急に思いついたのか、最初から計画していたのかは分からない。分かっているのは、ここで、トウ氏の決意を党中央に伝えたことだ。

 党中央文献研究室科研部図書館編「トウ小平−人生紀実」下巻(鳳凰出版社・江蘇教育出版社)などによると、トウ氏は列車から降り立つと「歩きながら話そう」といい、「ホームを4回往復し、その間6回立ち止まって話した」(関書記の回想)。

 トウ氏が最初に話したのは官僚主義の問題だ。

 「形式主義が多すぎる。テレビをつければ、会議の報道ばかりだ。会議が多く、文章も演説も長すぎ、しかも内容は重複し、新しい表現が少ない。形式主義も官僚主義だ。仕事を多くやって話は少なくすべきだ」

 トウ氏は毛沢東が長い会議を開かず、文章も講話も短く要を得ていたことや、75年の全国人民代表大会の報告を、毛沢東の指示でトウ氏が5000字で書いたことなどを指摘、「この問題にしっかり対処するよう提案する」と話す。

 その後、トウ小平氏は強烈な保守派批判をした。

 「いま、左右の影響があるが、根の深いのはやはり左の影響だ。一部の理論家、政治家が人にレッテルを張り脅しているのは、右ではなく左だ。右は社会主義を葬るが、左も社会主義を葬る。右を警戒する必要はあるが、主として左を防止しなければならない」

 トウ氏談話の原記録には「一部の理論家」の前に「●力群(とうりきぐん)(元中央宣伝部長)のような」が、「政治家」の前に「宋平(そうへい)(政治局常務委員)、李錫銘(りしゃくめい)(北京市党委書記)らのような」がそれぞれ入っていたが、後の全国通達の際、削除されたという(香港誌「鏡報」92年4月号)。

 トウ小平氏はさらに、保守派の改革・開放攻撃に踏み込み、反撃する。

 「改革・開放を、資本主義を導入・発展させるものといい、和平演変(平和的手段による体制転化)の主要な危険は経済分野からくると考えるのは左にほかならない。改革・開放をやらず、経済が発展せず、人民の生活を改善できないなら袋小路に入るだけだ」

 トウ氏は、西側との経済協力を、和平演変の手段と攻撃する保守派への怒りをあらわにし、攻撃対象の一つである3資企業が増えても恐れることはない、とも話した。

 武昌駅での講話は約30分間だったが、このほかにも幾つか重要な話をしている。南巡講話の骨格部分は、武昌駅で行われたといってよい。トウ氏は旅の始まりに、ただの休息旅行ではないことを党中央に通告、闘争宣言したに等しかった。

 トウ小平氏一行の専用列車が出発した後、関広富書記ら3人は駅の貴賓室で記憶を呼び起こし、トウ氏の講話記録をまとめ、湖北省党委員会名で18日夜、党中央弁公庁へ送った。トウ氏の指示だったのは間違いない。

 党中央はその3日後の1月21日、指導者の会議や各種儀式出席などを制限、会議報道を少なくする措置を決め、下部に通達した。トウ氏の「提案」に素早く反応、「敬意」を表したといえる。しかし湖北省党委の報告は極秘にされた。

 あまりにも衝撃的な内容だった。名指しされた宋平氏だけでなく、江沢民(こうたくみん)総書記や李鵬(りほう)首相も不安にかられたろう。

 トウ氏の言葉が保守派と同時に指導部批判であることは明らかだったからだ。不安は的中する。(伊藤正)

                   ◇

【用語解説】3資企業

 外国企業と中国企業の合弁(合営)企業と協力(合作)企業、外国企業の単独出資(独資)という3種類の事業体をいう。合弁企業は、出資比率に応じ損益を分けるが、協力企業は、外国側が技術や管理などで協力、その対価を受け取る形態が多く、外国側に経営責任はない。独資は外国投資者に損益が帰属する。外国からの資本や技術導入の有力な手段だが、天安門事件後は特に、外国の中国支配が強まるなどの批判が保守派から出た。

 ●=登におおざと

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