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【トウ小平秘録】(51)第2部「南巡講話」 改革派復職
「(改革・開放の)10年来、われわれが犯した最大の誤りは、青年に対する(社会主義堅持の)政治思想教育が足らなかったことだ」
トウ小平(しょうへい)氏がそう話したのは1989年3月、趙紫陽(ちょうしょう)総書記(肩書は当時、以下同)に対してだった。トウ氏は86年の学生デモ後も同様の話をしていたが、89年6月の天安門事件後は、一層強調するようになる。
その結果、各職場、大学や社会各層で学習会が組織され、ブルジョア自由化と和平演変(平和的手段による体制転化)批判の徹底が図られた。党中央宣伝部や国家教育委員会などが作成した学習資料は、改革・開放には申し訳程度に触れるだけだった。
91年8月のソ連共産党保守派によるクーデターが失敗、エリツィン・ロシア大統領が権力を奪い、共産党の解散からソ連邦解体へと向かっていくに従い、中国の保守派は反和平演変キャンペーンに一層力を注ぐ。
91年9月25日付の共産党機関紙「人民日報」は第1面の右肩に、かつての毛沢東語録と同じように、江沢民(こうたくみん)総書記の言葉を太線で囲み掲載した。その発言は前日開かれた魯迅(ろじん)生誕110周年記念大会での演説から抜粋したものだった。
「国際敵対勢力は1日たりともわれわれに対する和平演変をやめていない。ブルジョア自由化は彼らが進める和平演変に呼応したものだ。こうした敵対活動はわが国の独立と主権、われわれの建設と開放に対する現実的脅威になっている」
「敵対勢力」とは、米国を中心とした西側を指す。しかし、改革・開放は西側との協力と交流が不可欠であり、トウ小平氏は1カ月前に、「経済建設に重点を置け」と指示したばかりだった。
江沢民氏はそれ以前の演説でも10回以上、反和平演変に言及していた。トウ氏は、江氏の保守傾向に懸念を抱き、9月末から始まった中央工作会議の期間中、江氏と楊尚昆(ようしょうこん)国家主席を呼び話した(香港誌「鏡報」92年1、2月号による)。
「党の基本路線は経済建設が中心だ。反和平演変を語るのは少なくし、指導幹部に言うのはいいが、大衆には言うな」
江氏は中央工作会議で、魯迅生誕記念大会での演説の一部を取り出して強調した人民日報を批判、「私は反和平演変だけの総書記ではない」と話した。10月初めの政治局会議で「反和平演変は閣僚級幹部内にとどめる」よう提案したという。
しかし宣伝機関を牛耳る保守派の攻勢は止まらない。人民日報は10月23日、「左王」と呼ばれた●力群(とうりきぐん)元中央宣伝部長の「国外国内の反動勢力は誘惑と脅迫の策略を弄(ろう)して改革・開放を資本主義の軌道に乗せようとしている」「自由化=資本主義化の改革・開放と断固闘わねばならない」と主張する論文を掲載した。
●力群氏は、雑誌「中流」91年12月号の文章で、当時社会に広まった「毛沢東熱」を支持、92年1月12日付光明日報への寄稿文で、反和平演変の必要を強調するなど論陣を張り続けた。
「真理の追求」誌92年1月号は「ブルジョア階級とプロレタリア階級の矛盾と闘争はなお存在する。反和平演変闘争は、資本主義復活を防ぐために断固進めねばならない」と述べた。階級闘争論の復活である。
こうした保守派の攻勢は、第14回党大会が92年秋に迫る中、権力闘争激化の表れだった。5年に1度の党大会では指導部改選を行うが、トウ小平氏の“復帰”以降の動きは、保守派排除の人事になる可能性を強く示唆していた。
91年初めのトウ氏の上海視察後、4月に朱鎔基(しゅようき)、鄒家華(すうかか)両氏が副首相に抜擢(ばってき)され、銭其☆(せんきしん)外相が国務委員に昇格したのは、改革志向で実務能力を持つ人材を登用するトウ氏の意向の反映だった。
さらに6月には、天安門事件で失脚した胡啓立(こけいりつ)政治局常務委員、★杏文(ぜいきょうぶん)中央書記、閻明復(えんめいふく)統一戦線工作部長が閣僚級の次官ポストに復職した。
3氏とも趙紫陽氏と関係が深い改革派であり、降格とはいえ復職したことは、トウ小平氏の保守派への警告といえた。李鵬(りほう)首相や姚依林(よういりん)副首相ら保守派だけでなく江沢民総書記も警告の対象だった。
保守派の壁は厚く、極左的な王忍之(おうにんし)宣伝部長や高狄(こうてき)人民日報社長すら、更迭できなかった。バックには陳雲(ちんうん)氏はじめ長老がいた。長老たちは党大会で中央顧問委員会を廃止するトウ氏の方針にも抵抗していた。
そうした中で右顧左眄(さべん)し続ける江沢民氏にトウ氏は失望していたが、胡耀邦(こようほう)、趙紫陽両氏に続いて、3人目の総書記もクビにすることはしたくなかったという(寒山碧著「トウ小平晩年歳月」)。
トウ小平氏に残された時間は少なかった。91年末、トウ氏は最後の闘いを決意する。南方視察だった。(伊藤正)
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【用語解説】党大会
中国共産党全国代表大会の略で、党の最高決定機関。原則として5年に1度開催し、総書記による中央委員会活動報告を審理、承認、次期(5年間)の中央委員会を選出するのが主要な職権。ほかに中央規律検査委や中央軍事委の改選も行う。党大会に続き開く新中央委員会総会で、政治局、政治局常務委員会、総書記を選出する。
●=登におおざと
☆=深のさんずいを王に
★=くさかんむりに内