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【土・日曜日に書く】シンガポール支局長・藤本欣也 エアギターを奏でる独裁者

2008.7.6 02:55
このニュースのトピックスミャンマー情勢

 ◆将軍たちの熱演

 エアギターとは、何も持たずにエレキギターなどの弾きマネをすることだ。ロックスターばりの派手な動作の演技を競う世界選手権も行われている。

 実は、世界の首脳の中にもエアギターの妙手がいる。

 たとえば、北朝鮮の金正日総書記。舞台の上で一心不乱にエアギターを弾く金総書記に、客席から拍手を送るブッシュ米大統領−。最近、シンガポール紙、聯合早報に掲載された風刺画の話である。

 北朝鮮が提出した核計画の申告書には、核兵器などの重要情報が欠けているにもかかわらず、米国が北朝鮮のテロ支援国家指定解除を決めたことを揶揄(やゆ)している。金総書記の単なるポーズに過ぎないのに、あるいはパフォーマンスと分かっていながら評価をしたブッシュ大統領を皮肉ったものだ。

 そんな金総書記に倣ったかのように、エアギターを奏でる独裁者がアジアにはもう1人いる。ミャンマーの軍事政権トップ、タン・シュエ国家平和発展評議会(SPDC)議長である。

 ◆カエルを食べろ

 ミャンマーが大型サイクロンの直撃を受けたのは5月2日。未曾有の被害が出ていることを知りながら、タン・シュエ議長は国際社会の支援要員の受け入れを拒んだ。救援活動に自信があったからではない。「自分たちの無能力が露呈することを恐れた」(シンガポールのリー・シェンロン首相)のが実情だろう。国民保護よりも体制護持を優先させたわけだ。

 そのタン・シュエ議長が、エアギターを奏で始めるのは5月19日からである。軍政はまず東南アジア諸国連合(ASEAN)外相会議で、ASEAN各国の医療要員の受け入れに同意。23日には国連の潘基文事務総長を国内に迎え、議長が自ら会談、外国要員の受け入れを認めた。2日後に迫った国際支援国会合をにらんだ“熱演”であることは明らかだった。

 軍政が「復興には110億ドル(約1兆2000億円)の資金が必要だ」と繰り返し主張する中、ヤンゴンで支援国会合が開かれたが、各国から表明された資金供与は総額1億5000万ドル(約160億円)にとどまった。目標の70分の1以下。タン・シュエ議長の失望と怒りは想像に難くない。ミャンマー国営紙はその後、「被災者はチョコレートを必要としていない。カエルを食べて生きていける」と強弁しているという。

 サイクロンの死者・行方不明者は軍政の発表でも13万人を超え、2004年のインド洋大津波の最大の被災国、インドネシア(同約16万人)に迫る。被災者は国連推計で約240万人。国際社会は、とんでもない国家と向き合っているとしか言いようがない。

 ◆保護責任の行方

 「この国際会議の雰囲気をがらりと変えてしまって申し訳ない。でも、こう(主張)することが義務だと思ったのです」

 6月初め、英国際戦略研究所(IISS)がシンガポールで主催したアジア安全保障会議の席上。災害支援などのあり方をめぐる討議で、ミャンマーの国防副大臣を前に軍政非難を繰り広げたのは、フランスのルルーシュ下院議員(与党・国民運動連合)である。

 「国民を保護するのは国家の義務で、被災国を支援するのは国際社会の義務だ。だが、被災国の指導者が“信用できない理由”で支援を拒むとき国際刑事裁判所(ICC)で裁かれるとの決議を国連で採択すべきだ」と主張した。

 ルルーシュ議員の念頭にあるのは、2005年9月の国連首脳会合・成果文書で認められた、「保護する責任」の概念だろう。大量殺戮(さつりく)や人道に対する罪などから自国民を保護する能力や意思が国家にない場合は、国際社会が同国民の「保護責任」を負うとした。

 軍政が国際社会の支援要員受け入れを拒んでいた5月上旬、仏米英は国連安全保障理事会でミャンマーの「保護責任」を取り上げようとしたことがある。しかし、中国やロシアなどに「安保理が扱う議題にあらず」と反対された。

 軍政に対し「(被災者支援の)犯罪的放棄だ」(ゲーツ米国防長官)との認識が広がっても、「保護責任」に自然災害も含まれるのか、米欧がコソボ紛争などで掲げた人道的介入を行使できるのかは定まっていない。しかもミャンマーは約40万の軍隊を有するのだ。

 7日から北海道洞爺湖サミットが始まる。北朝鮮の核・拉致問題はもちろん、国民保護を後回しにしたミャンマーの問題もしっかりと討議してもらいたい。内政不干渉原則の壁はあるにしても、圧政国家に対する国際介入のあり方をめぐる議論がもっとあっていい。

 独裁者のエアギターに踊らされず、危機管理をしておくことが国際社会の義務のように思えるのだ。(ふじもと きんや)

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