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【土・日曜日に書く】ワシントン支局長・山本秀也 環境テロに大義名分はなし

2008.4.13 04:08
このニュースのトピックス捕鯨

 ◆横行する独善主義

 世に絶対の「善」があるとすれば、多分に始末の悪いものに違いない。何せ、「善」である。誰も正面から否定できないことはむろん、「独善」に陥って既存の秩序を壊しにかかる向きも出てくる。「善」を「環境保護」に言い換えるなら、「独善」の最たるものは環境テロに違いない。

 米国の反捕鯨組織、「シー・シェパード」が南極海で日本の調査捕鯨をさんざん妨害した事態の立件に、日本の捜査当局が乗り出した。後述するが、米連邦捜査局(FBI)は前からこの団体をマークしている。調査捕鯨船に投げ込まれたのが「酪酸」というのはちょっと米国風だ。日本ではなじみの薄いこの悪臭物質、米国では妊娠中絶に反対する活動家が産科クリニックにぶちまけることで、その筋では知られている。

 毒ギョーザの強烈な農薬とは違い、酪酸なら米国ではネット通販で簡単に買える。この程度の「独創性に欠ける」環境テロ組織になると、米国の有名どころだけで軽く十指にあまる。

 米国内で活動する「地球解放戦線」(ELF)という組織は、南極海の調査捕鯨妨害とほぼ同じ3月初め、米シアトル郊外の住宅展示場でモデル住宅5棟に時限装置を仕掛けた。うち3棟は爆発、炎上である。「地球にやさしい住宅」といった宣伝文句に刺激されての犯行だというから常軌を逸している。

 ◆誰もがひれ伏す「地球教」

 あらゆるテロ組織のご多分に漏れず、こうした環境テロの活動家も自らの信条や行動に疑念を抱かない。シー・シェパードが米連邦税を扱う内国歳入庁(IRS)に提出した「組織目的」など、堂々たるものだ。

 「海洋生物と生息水域の保護に向け、機関紙や講演により公衆を教育する」

 さすがに、「外国船舶への破壊活動」とは書けなかったか。自らを海洋生物を守る戦士と信じ込む気概だけは、まあ感じられる。

 地球環境の保護を絶対の教義とする「地球教」とでもいう宗教が仮にあるとすれば、テロ活動家はまさに使徒か殉教者を気取っているに違いない。クジラを、ヒンズー教におけるウシなみに神聖な存在に置き換えると、話のつじつまだけは合いそうだ。欧米人のクジラ偏愛は、およそ宗教の域に達しているとでも考えなければ、正直なところついて行けない。

 少なくとも建前の上で、世界の誰ひとりとして環境を壊してよいとは公言できまい。「死後裁きに遭う」「地獄に落ちる」などといわれても動じない向きですら、南極の巨大な棚氷が崩れ落ちる映像には恐怖を感じる。ここが厄介なのだ。

 テロ活動から日常的な資源ゴミの分別指導までが、「環境保護」というひとつの言葉に縛られる光景は、あるいは現代文明の“奇観”といえるかもしれない。

 ◆法の執行に強い決意を

 シー・シェパードの抗議船がオーストラリアあたりの寄港地で温かく補給を受けていると聞けば、日本人としてムッと来る。「捕鯨反対論は日本人への差別だ」という声にひかれそうになるが、それを言ってはおしまいだ。主張としての捕鯨反対と、南極海で酪酸を投げたり、過去にあったように捕鯨船を撃沈したりするテロ活動が同一視できようはずがない。

 FBIの国内テロ対策課長を務めたジェームズ・ジャーボー氏が、2002年2月に下院公聴会で行った証言が興味深い。環境テロの定義として、(1)自然環境に影響する行為(2)環境政策上の対立(3)社会へのみせしめ効果−を動機として対象を選定し、「被害者、または資産に対して暴力的な犯罪、またはその脅迫を行う行為」という線引きを明らかにしている。

 証言からは、FBIがすでにシー・シェパードに目を付けていたことが分かる。この定義を借りて調査捕鯨への妨害活動をみると、(1)環境への影響=クジラの捕獲・解体(2)政策対立=日本の捕鯨推進策(3)みせしめ効果=日本船への攻撃で他の捕鯨推進国を牽制(けんせい)−と、動機のすべてを満たしている。酪酸の投げ込みは日本船舶への「暴力的な犯罪」ではなかったか。

 ただ、捜査となると、「検挙率が低いことで明らかな通り、環境テロの捜査はかなり難しい」(ジャーボー氏)という。南極海での犯行とあってはなおさらだ。

 だが、論理は単純明快である。どんな大義名分を掲げていようとも、テロ行為は犯罪である。捕鯨反対を叫ぶ国際社会での逆風がどれほど強くても、犯罪者への処罰は全く別次元の話だ。法治体制への挑戦を許さない姿勢は、主権国家として忘れるわけにはゆかないところだ。(やまもと ひでや)

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