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【やばいぞ日本】序章 没落が始まった(6)完「米中のゲームに加われず」

2007.7.8 08:23
このニュースのトピックスやばいぞ日本

 中東の泥沼から抜け出そうともがくワシントンでは政治・外交の構造変化が起きている。

 それに乗じる中国。日本はその地殻変動についていけない。

 「今や中東情勢はまるで第三次世界大戦前夜だ」。この6月13日、国防総省の地下会議室に各政府機関の国際情報分析専門家約30人が極秘裏に集まった。イラクの大量破壊兵器存在説を流す過ちを犯して以来、評判の芳しくない中央情報局(CIA)抜きで、本音で討論し、「巨大な衝撃が将来起こりうることで議論は白熱し、結論どころではなかった」と会議に参加した国防総省筋は言う。

 「国務省内では今、バルカン化(balkanization)という言葉が流布している」(元国務省幹部)。

 バルカン化とは、中東のように地域全体がばらばらになり、互いにいがみ合って紛争が頻発し、収拾がつかない事態をさすが、「中東問題を最優先しないとバルカン化が世界に広がる」(国務省筋)。

 ライス国務長官はヒル国務次官補ら東西冷戦の専門家を東アジア担当に据え、朝鮮半島問題を重視してアジア専門家を事実上一掃した。ネオコンと呼ばれ、民主主義イデオロギーを浸透させるためには強硬論で譲らないボルトン元国連大使らも政権から離れた。

 中国、韓国と組み、北朝鮮を懐柔し、とにかく核の放棄の道筋を付ける。北の核はそれ自体が米国にとっての脅威という意味ではない。その核が中東やテロリストに拡散する恐れを取り除くことが優先する。そのために金融制裁も事実上解除した。 核合意を確かなものにするために、ヒル次官補は中国の北朝鮮への影響力に頼る。北京との関係強化を通じてライス長官の訪朝、国交正常化交渉すら仕掛けかねない。中国の比重が米外交にとって高まっていく。

 一方で米議会のほうでは、中国に向かって逆風が吹き荒れている。人民元の切り上げなど通商問題や、スーダンでの人権抑圧などで集中砲火を浴びている。中国は逆に対話の好機到来とみるのか、「民主党、共和党を問わず在米中国大使は主要候補者の選挙区を精力的に回っている」(米地方紙記者)。

 中国の「知略」は急速に洗練されつつある。ことし4月末、ワシントンの国防大学で「宇宙行動規範」に関する超党派のシンポジウムが開かれた。

 中国は1月に、自国の気象衛星を標的に衛星破壊の実験を実施し、米国や日本は中国の暴挙を一斉に非難した。出席者の顔ぶれの中にはクリントン政権当時のレイク国家安全保障担当補佐官とホルブルック国連大使の重鎮二人と並んで民主党大統領候補としてクリントン上院議員を急追しているオバマ上院議員のアドバイザーもいる。

 中国大使館の安全保障担当は発言を求め、「米国の衛星が中国の脅威なのは当然」。一呼吸置いた後、「でも軍部との対話は難しいね」と言ってのけた。

 中国といえば党の指示通り、大国の横暴ばかり非難すると思いきや、あっさりと本音を公言、会場は沸いた。それにつられたのか、衛星破壊批判では共和党と一致しているはずの民主党系の専門家が、「破壊実験は宇宙の軍縮管理に消極的なブッシュ政権に警告したかったのだろう」とボルテージを下げた。

 目の前で演じられた米中のゲームに日本政府からの参加者は沈黙したままだった。

 「最近の国際会議ではよくあるパターン」と会議を傍聴した知り合いの知日派米国人は言う。日本は米中のはざまに埋没している。

 ■退場した知日派

 「ネオコン」が健在なころは、日本はワシントンで中国を圧倒していた。ネオコン陣営のボルトン元国連大使は「拉致問題で、米国は日本を全面支援すべきだ。金正日は絶対に核を放棄しない。平壌に圧力をかけ過ぎると北朝鮮が崩壊すると恐れる中国をあてにできない。国務省の対話路線は完全に失敗した」と今も咆哮してやまない。

 ヒル氏は2005年4月に次官補就任のあと、ライス長官を説き伏せて平壌に乗り込もうとしたが、強硬派の総帥、チェイニー副大統領の了解が必要だった。「副大統領はホワイトハウスの執務室で案を一べつするや、キミね、核疑惑のならず者国家と二国間交渉できると思うのか、と冷たい目を向けた。われわれは言葉を返せずそのまま部屋を出た」(ヒル氏に近い筋)。

 その副大統領自身、腹心のリビー元副大統領首席補佐官の米中央情報局(CIA)工作員身元漏えい事件での司法妨害罪などで力をそがれてしまった。

 「ヒル次官補の独走をやめられる者はホワイトハウスにもいなくなった」(元国務省幹部)。

 日本はネオコンという強力な後ろ盾を失ったばかりではない。ワシントンの知日派の大半が政権から離れた。

 知日派の総元締めであるアーミテージ元国務副長官は言う。「私やグリーン元国家安全保障会議アジア上級部長が政権にいるうちは日本の要人は議会に足を運ぶ必要なんかない、われわれに会えばすべて用が足りた」。日本は知日派に頼り切った結果、「2001年のブッシュ政権発足以降、ワシントンに来る日本の閣僚や政治家に議会要人に合わせようとしても、大半はノー・サンキュー」(共和党系ロビイスト)だった。

 日本政府や政界の対米議会工作は、空白の状態が続いている。日米経済問題は無風なのに、ワシントンの日本大使館スタッフのうち、議会担当はわずか4人、約40人もの経済担当スタッフという布陣は通商摩擦が激しかった1980年代と変わっていない。官庁の縦割りがそのまま持ちこまれ、見直しは一向に進まない。

 ワシントンが中国をたたいてもニューヨークは全く違う。「中国の軍事的脅威論は誇張のしすぎ」(JPモルガン・チェース・インターナショナルのパール副会長)、「有害食品問題なんかは米国で19世紀末に深刻だった。民主主義でなくても、市場競争で解決できる」(米国の大学教職員年金ファンドのマネジャー)。

 金融は軍事と並ぶ超大国米国の要だ。中国は政府機関としては今や日本をしのぐ米国債の最大の買い手で、米金融市場安定のカギを握っている。政治のパイプがたとえ細っても、経済面では米国での存在感で日本は優位というのも今や過去、中国の台頭で薄れていく。(田村秀男)

 ■タイトルについて

 予想していたことなのですが、「やばいぞ日本」という連載タイトルについて、読者からたくさんの反響をいただきました。

 「やばいぞ」なんて、ヤクザかチンピラの使う言葉で品がない・非常識であるといったお叱りや、そういう悪い言葉をただしていくのが新聞社の務めではないかといったご批判もありました。

 「やばい」という言葉は、危険だ、危ない、けしからん、奇怪だなどという意味の形容動詞「やば」を形容詞化してできたとされています。

 また、いまの若者たちは「やばいぞ」をすばらしいといった逆に肯定的に使っているようでもあります。

 私たち取材班は、いま日本が陥っているこの深刻な事態を、なんとか強いインパクトをもって訴えたいという意図で使ったのですが、実は“日はまた昇る”式に、愛する祖国日本が立ち直るための処方箋(せん)も示したいと企画しています。どうかご了承をたまわり、併せて本企画に期待していただきたいと思います。

 「やばいぞ日本」取材班キャップ 中静敬一郎

 「やばいぞ日本」第1部は14日付朝刊から始めます。

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