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【やばいぞ日本】序章 没落が始まった(4)「誤ったイメージ払拭したい」

2007.7.6 08:46
このニュースのトピックスやばいぞ日本

 「日本国内で何が起きているのか」。ワシントンのシンクタンク「ヘンリー・スティムソンセンター」研究員の辰巳由紀さん(36)(有元隆志撮影)=に昨年9月上旬、こんな電話をかけてきたのは、米下院国際関係委員会のヘンリー・ハイド委員長(共和党)の補佐官、デニス・ハルビン氏だった。

 少し前の8月15日、小泉純一郎首相(当時)は靖国神社を参拝した。米の主要メディアの多くは首相参拝を非難した。日本にナショナリズムが高揚しているなどの報道も展開された。

 フィリピン戦線の従軍経験をもつハイド委員長から実務面などを任されているハルビン氏は、「日本と隣国との関係」をテーマに公聴会を開催すると告げ、「ナショナリズムの台頭などを日本人として証言してほしい」と要請した。

 辰巳さんは「光栄なこと」と答えた。5カ月前、拉致被害者の横田めぐみさんの母、早紀江さんが同委で証言したが、日本の政策を日本人が証言することは極めてまれだ。辰巳さんはそれだけに日本に対する誤ったイメージをなんとしても払拭(ふっしょく)したいと思った。

 辰巳さんが違和感を覚えたのは、1930年代の軍国主義への復帰を求める過激な右翼勢力が日本の主流になりつつあるとした8月27日付ワシントン・ポスト紙の「日本の思想警察の台頭」であり、日本の言論に非寛容な政治的雰囲気が出ていると分析した「パシフィック・フォーラムCSIS」発行の8月24日付ニュースレター「心配な一連の出来事」だった。

 「これでは日本が過激なナショナリズムに染まりつつあると誤解してしまう。日本の状況を正確に伝えなくては…」。東京生まれ、国際基督教大学からジョンズ・ホプキンス大学大学院で安全保障を学び、日本大使館で専門調査員を務めたこともある辰巳さんは、訴えたいことを許された5分間の陳述で表現できるよう幾度も練習を重ねた。

 9月14日の公聴会。ハイド委員長は「靖国神社は戦争犯罪者をたたえている」と語り、トム・ラントス議員(民主党)も「ナチスのヒムラー(親衛隊長)たちの墓に花輪を置くに等しい」と非難した。

 マイケル・グリーン(前国家安全保障会議アジア上級部長)、カート・キャンベル(元国防次官補代理)、女性活動家のミンディ・コトラーの3氏に続き、最後に登場した辰巳さんは、首相参拝の意義をこう語り始めた。

 「第二次大戦で命を失った兵士たちに敬意を示し、平和への誓いを新たにしたものです。靖国参拝は、日本が自らの過去と向き合って内省するという日本の健全な発展を意味しています」。続いて、ナショナリズムに触れ、「ほとんどの日本人は軍事的な過去を賛美する考えを支持していません。日本のナショナリズムとは、多くの日本国民が日本という国を誇りに思いたい気持ちのことです。米国の愛国主義(パトリオティズム)に近いのです」と述べた。

 出席した議員51人のうち、8人が質問に立った。「日本は平和憲法を変えて戦争をできるようにしているとの懸念をきいた」とのバーバラ・リー議員(民主党)の質問に対し、辰巳さんは「日本人の間で侵略戦争をしないという合意は存在する。現在の憲法解釈では自衛隊が国連平和維持活動中に米軍や中国軍とともに参加した場合、彼らが攻撃されても、助けられない。日本の議論は、自衛隊が他国軍を支援できるようにしようというものです」と答えた。

 ラントス議員は「われわれすべては大いに学んだ」と総括した。ハルビン氏も「とてもよかった」と握手を求めた。辰巳さんは自分の言葉で日本の実像を伝える努力はできたと思いながらも、日本の基本的な立場がどの程度、唯一の同盟国に理解してもらえたのか、不安を拭(ぬぐ)いきれなかった。

 ■英字紙が伝える「ひどい国」

 「日本人が考えていることの1割も外国に伝わっていない。英語で発信されたものだけで米国の政策は決まる」

 今年3月、都内で開かれたシンポジウムで、ワシントンのCSIS(戦略国際問題研究所)客員研究員の渡部恒雄氏(46)は、日本の対外発信力がいかに貧弱かを力説し、東南アジアのある公使の発言を以下のように紹介した。

 「英字紙を読むと日本はなんとひどい国と思うが、本当はそうではない。英語で語られる日本と現実の日本はなぜ、こうも違うのか」

 日本をなにか不気味な国というイメージでとらえがちな英字メディア、そして、それを国内で発信している勢力がいることも「ゆがんだ日本」像を膨らませる。憲法改正や集団的自衛権の行使により、日本が軍国主義に突き進もうとしているとの見方は、その一例だ。

 だが実態は、辰巳さんが語ったように、日本は国際常識が通用する当たり前の国になろうとしているだけなのである。

 問題は、このことを日本政府がこれまでいかに語ってきたか。外国にどう発信してきたのかだ。

 安倍晋三首相は昨年9月の就任後、憲法改正を明言し、集団的自衛権行使を研究すると表明したが、改憲を明言した首相は戦後初めてだ。

 「日本の平和主義を薄めようとしている」(昨年9月25日付ワシントン・ポスト)などの批判が出ているが、裏返せば、それだけ顔が見えているといえる。

 それまでの日本の指導者は、国の針路をあまり語ろうとしなかった。語るに足る内容もさることながら、米国依存の軽武装経済重視という既定路線をそのまま踏襲してきたからだ。

 だが、「沈黙の大国」のままでは国際政治の激流に翻弄(ほんろう)されるだけだ。要は、第2、第3の辰巳さんをいかに出現させるか。

 CSISで、ともに働いたこともある辰巳さんと渡部氏は提言(別稿)を連名でまとめ、東京財団で3月に発表した。日本を知ってもらうためには、まず日本人が努力しようということである。(中静敬一郎)

 ◆国益情報を効果的に発信するために

(1)英語で日本の政策について書き、話すことができる人材の育成が急務だ。年に1度「国際発信大賞」で、日本からの英字メディアへの効果的な発信に100万円の副賞を与えて推奨すべきだ。

(2)世界に日本のクリアな戦略ゴールを発信することが余計な誤解を解く最善の方法だ。

(3)国際的なメッセージの発信には長期的な戦略性をもち、丁寧に根気強く努力を継続すべきだ。

(4)日本の中でオープンな議論ができ、さまざまな意見が闘わされる環境作りこそが有効な国際発信の大前提である。

(5)在外公館の広報活動を見直し、日本の政策に関する基本的データの整備と人材の配置を図るべきだ。

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