ニュース: スポーツ RSS feed
【断 二宮清純】トラック女王の無謀
このニュースのトピックス:コラム・断
おぼつかない足取りでよろよろしながらゴールにたどり着いた。その姿はまるでKO負けしたボクサーのようだった。路上で1度、トラックで3度も転んだ。顔から崩れ落ちた時にはヒヤリとした。ボクシングの試合なら、あそこでセコンドがタオルを投げ入れていただろう。
1月27日に行われた大阪国際女子マラソン(北京五輪代表選考レース)。五千メートルやハーフマラソンの日本記録を持つ福士加代子は30キロ以降に失速し、見るも無残な敗北を喫した。「30キロ過ぎで急に目や足に違和感を覚えた。長居陸上競技場が見えてからは頭の中が真っ白になり、全く記憶がない」。炎天下なら担架で運ばれていたかもしれない。
4度も倒れながら、そのつど立ち上がり、完走した福士の執念には敬意を表したい。他のランナーなら、とっくにレースを投げているところだ。悔し涙を次につなげてほしい。
しかし絵に描いたような惨敗を美談にするのはどうか。厳しい言い方だが私に言わせれば彼女は軽装で冬山に登ったようなものだ。女子マラソン指導の第一人者・小出義雄が「福士さんはマラソンの脚ではなかった」と評したように、筋力面、スタミナ面、戦術面での準備不足は目を覆うばかりだった。
聞けば最長で32キロ走を1回こなしただけだという。“トラックの女王”の異名をとる福士だが五千メートルや一万メートルとマラソンは似て非なる競技である。なればこそ陣営はそこに細心の注意を払い、綿密な計画をあらかじめ立てておくべきだった。無謀は勇気ではない。KO負けの後遺症が心配だ。(スポーツジャーナリスト)