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【114の金物語(93)】1996年アトランタ大会 柔道・男子60キロ級 野村忠宏
このニュースのトピックス:ワールドスポーツ
日本からアトランタへ出発するとき、野村忠宏は空港で報道のカメラマンに突き飛ばされた。「無名選手は悲しいなぁ」。世間に期待されていない自分を感じた。
7月26日。日本中が金メダルを信じ、期待していた田村亮子が決勝で北朝鮮選手に敗れた。田村が呆然(ぼうぜん)と畳に座り込む姿を会場の片隅で見ていた。でも動揺はしなかった。直後のジョビナッツォ(イタリア)との決勝戦。ポイントが先行しても、攻め続けた。残り25秒、背負い投げを鮮やかに決める。世界選手権にすら出たことがない新星が、五輪の金メダルを手にした。
日本を離れる前、父と祖父からこう言われた。「大舞台でプレッシャーを感じられるのは一握りの人間だけだ。それでつぶされるなら、それだけの選手」。父は天理高柔道部部長、祖父は名門柔道場の創始者。ちなみに叔父は1972年ミュンヘン大会の金メダリスト。突き放したような言葉だが、野村家の柔道のスペシャリストたちは、世間とは違い、21歳の忠宏に大きな期待を寄せていたのである。

