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【スポーツコラム】時津風事件、研鑽なき「力人」の罪
力士傷害致死事件で逮捕された時津風部屋の兄弟子は「親方は絶対の存在で逆らえなかった」と供述した。元時津風親方は「兄弟子たちが勝手にやった」と話し、容疑を否認しているという。食い違いが明らかになればなるほど、変質しつつある相撲部屋の実態が明確になっていく。
時津風部屋は双葉山が現役時代に開いた「双葉山道場」が礎である。双葉山については、自著「相撲求道録」、復刻版「横綱の品格」(ベースボール・マガジン社)に詳しく、道場に「力士規七則」が掲げられた。東洋思想家の安岡正篤が吉田松陰の「士規七則」にあやかった。「人にして礼節なきは禽獣にひとし、力士は古来礼節を以て聞ゆ。謹んで斯の道の美徳を失うことなかれ」。七則の一つで、「切磋琢磨」「勉励」「質実剛健」など力士の在り方を説く。双葉山は安岡氏を説得し、板額に揮毫(きごう)してもらった。名文刻む額は時津風部屋に今も残る。
双葉山が大横綱、そして名理事長として語り継がれるのは、磨かれた人格による。人格は人によってつくられる。連勝が69で止まったとき、「イマダ モッケイタリエズ フタバ」と打電した。電報を受け取ったのは安岡氏だった。モッケイは中国の古典に出てくる「木鶏」で、鶏を修業し闘鶏として完成したとき、鶏は木でつくったように無心になる。双葉山は、その話を大関時代に安岡氏から聞き、「得難い教訓」として胸に納めていた。
吉川英治とも交友があった。「宮本武蔵」「五輪書」などで追い求める武士の生き方は、右目が見えない双葉山の「心身一如」の境地を切り開く手助けとなった。歌舞伎の六代目尾上菊五郎からは「踊りも相撲も一番大切なのは腰だ」と助言された。赤痢にかかったとき、漢方薬を手渡してくれたのは画家の横山大観だった。土俵外でも常に自分の魂を磨いていた。
ときが過ぎ、時津風部屋の師匠は禽獣のごとく、弟子を痛めつけた。騒動の後は相談する相手もなく、「死にたい」と漏らしていたという。北の湖理事長(元横綱北の湖)はやむなく会見に応じ「長い歴史の中で力士が逮捕され遺憾で残念」と文書を棒読みした。危機感がない。研鑽なき言動が長年にわたって先人が築いた力士の偶像を崩していく。(運動部次長・小田島光)