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【ウェブ立志篇】米ミューズ・アソシエイツ社長 梅田望夫 進化を遂げる英語圏

2009.10.26 03:27
このニュースのトピックス科学・数学

 ITの世界は動きが早い。前回の本欄で米国最新事情としてご紹介したアマゾンの電子書籍端末「キンドル」が、日本を含む世界中で入手できるようになった。出荷は10月19日。本紙読者の中にも、もうすでに使い始めている方がいらっしゃることだろう。アマゾンは「これまで出版されたすべての本をすべての言語で、60秒以内にキンドルで読めるようにすること」をビジョンとして標榜(ひょうぼう)しているが、当面は「英語の本を世界へ」というサービスである。

 英語圏のウェブ世界が「知の基盤」として、日本語圏とはまったく異なる進化をしていることは本欄でもたびたび触れてきたが、加えて本の世界でも英語圏は突出した進化を遂げようとしている。たとえば日本でキンドルを購入する人々は限られるが、英語圏諸国、英語で教育が行われている新興国でのインパクトは計り知れない。

 インターネットの登場は情報の需給関係を大きく変え、知の供給の役割を担っていた産業に激震をもたらした。知の供給者にそれまでお金が回っていた仕組みが脅かされるようになったからだ。しかしこのたび米国の出版社がアマゾンと組んで「英語の本を世界へ」というサービスに乗り出したことからもわかるように、グローバル化の流れの中で、英語圏に限っては、消費者層が大きく広がるフロンティアが確かなものとして現れたのである。

 逆に言えば「国内市場だけみれば仮に昔ほどおいしいビジネスモデルでなくとも、新技術を生かして世界に出れば…」と発想できるのは、英語圏の知の供給者だけなのだ。キンドル日本発売に際してアマゾンは「日本語による配信開始時期は未定」と説明したが、「世界へ」というフロンティアが存在しない英語圏以外の出版社が同じモデルに乗ることは困難なのである。

 グーグルは5年前から欧米の大学図書館と組んで「人類の過去の英知」たるすべての本を「ネットのあちら側」に蓄積して、誰でもどこからでも読めるようにしよう、という壮大なプロジェクトを始めた。著作権の切れた本を無償提供するだけでなく、いずれ著作権者とも「Win−win」な関係を築いたうえで有償サービス化することをもくろんでいる。交渉は紆余(うよ)曲折が予想されるが、英語圏では徐々に実現していくものと思われる。しかしグーグルと本格的に組む日本の図書館はほとんど現れず、私たち日本人は「これも英語の世界の出来事」と受け止めることになるだろう。

 こうしてこのまま10年が経過すると何が起きるのだろう。

 インターネットは既存産業に破壊的なインパクトを及ぼすと同時に、利用者には圧倒的な利便性や生産性向上をもたらすものだ。私は勝手に「知の英語圏日本語圏問題」と呼んでいるのだが、世界語と化した英語の非対称性ゆえの構造問題と理解しつつも「これだけの知的興奮の可能性が英語の世界にしかもたらされないのか」と個人的には残念な気持ちが勝る。  「日本語で学べる環境」や「日本語による知の創造の基盤」の競争力をいかに維持するのか。ウェブ進化の恩恵を受けて新しい地平が拓(ひら)かれる英語圏を見つめながら、日本人として考えるべき課題は山積だなあと悩む昨今である。(うめだ もちお)

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