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【生きもの異変 温暖化の足音】(68)毒化魚、サンゴとともに北上
15〜17世紀の大航海時代の船乗りの間には「サンゴ礁に船が乗り上げると魚が毒を持つようになる」という言い伝えがあった。
探検家のキャプテン・クックも「船が座礁したサンゴ礁で捕れた、無毒のはずの魚を食べて、船員が奇妙な中毒を起こした」と航海記に記している。
シガテラ中毒である。今も世界で年間2万〜6万人の患者が発生している最大規模の食中毒だ。
死亡率は低いが、激しい下痢や吐き気、筋肉痛、かゆみなどに襲われる。温度感覚の異常が特徴だ。アイスクリームを熱いと感じたり、水に触れると異常な冷たさを感じるドライアイスセンセーションを起こしたりする人もいる。
日本では、サンゴ礁が広がる南西諸島特有の食中毒として知られていた。しかし、1998(平成10)年に宮崎県で釣れたイシガキダイを食べた人が中毒したのを皮切りに、和歌山、三重、神奈川、千葉の各県で相次ぎ発生。発生域は北上し、拡大する一方だ。
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シガテラ中毒の発生メカニズムはこうだ。サンゴが死ぬと、残った骨格の表面に石灰藻というサンゴ藻の仲間が生える。そこに毒素を持った渦鞭毛藻(うずべんもうそう)というプランクトンが繁殖し、小型草食魚が食べる。それを大型肉食魚が食べて毒素を体内で濃縮、それを食べた人間が中毒する。
だから、大航海時代の言い伝えのように、船の座礁でサンゴが死んだ海域では、シガテラ中毒が発生するわけだ。
沖縄県衛生環境研究所衛生科学班の大城直雅主任研究員によると、シガテラ中毒の原因となる神経毒、シガトキシンは、フグ毒の70倍もの毒性を持つ。ただ、魚体に蓄積される分量が少ないため、重篤になることはほとんどない。
毒魚となるのは、イッテンフエダイやバラフエダイ、バラハタといったトロピカルな魚が中心で、沖縄県では毎年、2〜3人の中毒者が出ている。「自分で捕った魚で当たるケースが多い。おいしい魚なので、可能性を承知の上で食べる人もいる」という。
今のところ、毒の有無を素早く調べる方法は確立されていない。そのため、すべてが毒化しているわけでないにもかかわらず、市場では取り扱わないよう指導が行われ、食品衛生法で輸入も禁じられている。
大城さんは「シガテラ魚の有効な検査方法を早く確立し、せっかくの水産資源をきちんと活用したい」と研究を急ぐ。
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「地球温暖化が一因となっていることは間違いないでしょう」。シガトキシンの発見者でシガテラ中毒研究の第一人者である安元健・東北大学名誉教授は、中毒の発生域の北上現象についてそう語る。
シガテラ魚の発生にはサンゴが不可欠。そのサンゴは温暖化の影響で分布が拡大し、太平洋側は千葉県館山市まで北上している。これに伴い被害も北上しているのだという。確かに、これらはピタリと一致する。
それだけではない。海水温の極端な上昇でサンゴが死滅する白化現象も多発している。「石灰藻の生える面積が増え、発生拡大に拍車をかけている可能性もある」というのだ。
さらに、渦鞭毛藻は温暖化で増殖しやすくなっている上に、無毒種の有毒化も推定されている。安元さんは「温暖化が進めば、ますますシガテラ中毒の拡大が懸念される。知識の普及が必要だ」と話している。(伊藤壽一郎)

