ニュース:地方 RSS feed
【特報 追う】ローカル線 存続へ暗中模索
南北に長く、国土面積の約6分の1を占めるほど広大な東北地方。日本海側を縦断する高速道、新幹線はなく、太平洋側と日本海側を結ぶ交通網も整備されているとは言い難い。それを補完しているのが、各地を走るローカル鉄道だ。過疎化や燃料高、地震による風評被害など鉄道会社を取り巻く経営環境が厳しさを増す中、みちのくの“毛細血管”は生き残れるのか−。現状を探った。(渡部一実)
「三陸鉄道ドッと混む(.com)」。会社のウェブサイト名は、電車の利用者が増えるよう願って名付けた。
岩手県沿岸部を縦に走る三陸鉄道(本社・宮古市)は、ユニークな集客方法で注目されている。車両内部に畳をしいて「お座敷」に改造したり、こたつを置いたり…。リアス式海岸など眺めの良い場所で列車を一時停止し、乗客に風景を堪能させるサービスもある。景色が見えないトンネルでは、運転士が地元出身の歌手、新沼謙治さんの歌を歌い、車内をにぎわす。
駅や列車にこんなポスターを張り、地域住民の危機感をあおったこともある。「平成15年度赤字額1億2700万円。このままでは危機的状況!沿線住民30万人が今よりも年に1回多く乗れば黒字に!」
さまざまな創意工夫が奏功し、同鉄道は観光客や団体客ら「定期外利用者」が17年度の約40万人から18年度は約41万人、19年度は約43万人に増加した。しかし、状況は厳しい。観光客を含む全利用者は16年度の約107万人から18年度は約104万人、19年度は約103万人に減少。車両の老朽化、燃料価格の高騰でランニングコストもふくらむ。
同社総務部の担当者は「人口流出や少子高齢化で通学生ら『定期利用者』が減ったが、この傾向は仕方がない。その分、観光や娯楽として楽しめる鉄道、地域振興のツールとしての鉄道を目指し、定期外の利用者を増やしたい」と話す。
■ ■
鉄道統計年報によると、東北のローカル線12社の乗客輸送量は、平成元年と比べ17年は60%、18年は58%にまで減少。収支は全社が赤字だ。19年3月には「くりはら田園鉄道」(宮城)が廃線となり、現在も秋田内陸縦貫鉄道など多くの路線で廃止論議が巻き起こっている。
こうした“危機”を招いた要因を、国土交通省東北運輸局の岸谷克己鉄道部長は「各社の経営努力の不足というより、ローカル線自体が持つ構造的な問題」と説明する。
昭和62年の国鉄分割民営化で政府は赤字路線を廃止し、バス交通に転換することを検討。しかし、沿線の自治体は住民の生活の足が奪われることを懸念し、半官半民の第3セクター方式で赤字路線の運営を“引き受けた”。つまり、ローカル線の多くが「マイナスからのスタート」だった。
さらに、東北ではマイカーへの依存度が高く、鉄道利用率が低いことも、ローカル線不振の一因だ。国交省の旅客流動調査(平成16年)によると、移動に鉄道を利用する割合は全国平均の25%に対し、東北はわずか5%。5%のうち4%はJR利用で、ローカル線など「民鉄」の利用率は1%だ。人口減少のペースが全国で最も速いことも、乗客の減少に拍車をかける。
岸谷部長は「鉄道事業は民業だが、車を使えない子供やお年寄りの足になったり、道路の渋滞緩和に貢献したりと公共的な側面が強い。特に豪雪地帯の東北では、冬に車やバスで越えられない峠が多く、鉄道は重要。単純に『赤字だからやめる』とはいかない」という。
■ ■
存続をかけた模索は各地で続く。津軽鉄道(青森)は冬用の石炭ストーブを真夏の車内でたき、サウナ気分を味わう「真夏のストーブ列車」、阿武隈急行(福島)は車内で缶ビールを配るサービスが付いた「ほろにが号」を運行。山形鉄道は山形弁で車内アナウンスをする「方言ガイド」で集客効果を狙う。
鉄道各社の取り組みを「官」も後押しする。秋田県北秋田市、仙北市は市職員に秋田内陸縦貫鉄道の利用を促すため、電車通勤者に限りフレックス勤務を許可。国も5月に地域公共交通活性化法を改正し、これまで鉄道会社が負担していた用地維持費、線路修繕費などを自治体が肩代わりできるようにした。三陸鉄道、秋田内陸縦貫鉄道などがこの制度の活用を検討中という。
東北の鉄道関係者はこう口をそろえる。「航空便は1度廃線しても、ニーズがあればまた飛ばせばいい。でも鉄道は用地取得やレール敷設が必要だから、1度なくしたら物理的に運転再開は厳しい」。果たして東北のローカル線は生き残れるのか。各社の動きから目が離せない。
■東北のローカル鉄道 名称/走行区間(距離キロ)
(1)津軽鉄道/津軽五所川原−津軽中里(20・7)
(2)十和田観光電鉄/十和田市−三沢(14・7)
(3)弘南鉄道弘南線/弘前−黒石(16・8)
大鰐線/中央弘前−大鰐(13・9)
(4)青い森鉄道/八戸−目時(25・9)
(5)IGRいわて銀河鉄道/目時−盛岡(82・0)
(6)三陸鉄道北リアス線/宮古−久慈(71・0)
南リアス線/釜石−盛(36・6)
(7)秋田内陸縦貫鉄道/鷹巣−角館(94・2)
(8)由利高原鉄道/羽後本荘−矢島(23・0)
(9)山形鉄道フラワー長井線/赤湯−荒砥(30・5)
(10)阿武隈急行/福島−槻木(54・9)
(11)会津鉄道/西若松−会津高原尾瀬口(57・4)
(12)福島交通飯坂線/福島−飯坂温泉(9・2)