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【酒屋万流】(2)甘さ抑えた「究極の食中酒」

2008.5.9 03:09

 ■流行に逆行…「品質にがむしゃらなこだわり」

 名の知れた老舗をはじめ、多くの個性的な酒蔵がしのぎを削る宮城県の酒造業界。10年前までその最後尾にいた県北の小さな蔵が、若い跡取りのもと改革を推し進め、海外進出するまでに成長した。そこには酒の品質にこだわった技術者としての矜持(きょうじ)があった。

 4月20日、宮城県内最年少の杜氏(とうじ)で、新澤醸造店の専務、新澤巌夫さん(33)は確かな手応えを胸に、成田空港に降り立った。イタリアのミラノとローマで試飲会を開き、海外での日本酒の反応を探ってきた。

 「海外に、あんなにも日本酒を飲みたがっている人がいたなんて。純粋にうれしかった」。日本酒に未来はないのではないかという不安が、吹き飛んだという。

 国内で日本酒への逆風が続く一方で、輸出量は増加傾向にある。平成18年に1万キロリットルの大台を突破し、昨年もさらに前年比1割増を記録した。

 新澤醸造店は輸出も手がけており、今では海外への出荷量が生産全体の1割に達する。これは新澤さんが杜氏になったころには考えられないことだった。

 蔵の跡取りだった新澤さんは東京農大で最新の醸造科学を学び、山形県の酒蔵で研修。さらに東京の酒販店で1年間修業して地元に戻った。だが蔵の経営は危機にひんしていた。

 「当時のうちの酒は近所の人がお情けで料理酒なんかに買ってくれるくらいで、うまいという人なんていなかった」。新澤さんは当時をふり返って苦笑する。

 25歳の若さで酒造りの全責任を負う杜氏に就任すると、早速改革に着手、新たな銘柄の開発にも乗り出した。

 新澤さんは在学中、最年少で利き酒チャンピオンになったほどの味覚の持ち主だ。その“神の舌”が選択したのは意外にも、流行とは正反対の味だった。甘みや香りを極力抑え、料理を引き立てる「究極の食中酒」を目指すと決めた。経営難のなか、早く結果を出したかったが、あえて遠回りを選んだ。

                 ■   ■

 「評価される酒の逆をいったんだから、基本的には売れない酒。でもね、甘みがなくても、料理と合わせるととんでもなくおいしくなるんですよ」と新澤さん。

 「伯楽星(はくらくせい)」と名付けられたその酒は、料理人らを中心に高い評価を受け、瞬く間に看板商品へと育った。この酒が人気を博した裏には、品質への並々ならぬこだわりがあったのは間違いない。

 「『究極の食中酒』を造りたいという作り手の気持ちを形にしようとしたとき、自然と純米酒に行き着いた」。就任当初、大半が安価な普通酒や本醸造だった蔵の酒は、今や8割以上が純米酒だ。 

 同じ「伯楽星」の銘柄でも出荷する地域によって微妙に味を変えた。寒冷な北海道にはとろみのある軟らかい酒質、九州にはベタつかないフレッシュな酒を出しているという。

 また「価格以上の品質の酒を提供しよう」と、少しでも酒質に納得がいなかければ、1ランク下の安価な酒に格下げした。昨シーズンの格下げは全体の1割に上り、税務署から「そんな酒造りをやっていると倒産する」と忠告されたほどだ。

 「売れる酒なんて時代とともに変わっていく。でも酒造りは何百年も続く仕事。次世代のための土台になりたかった。蔵にはそれぞれ役割があって、料理を引き立てるだけの酒を造る蔵が1軒くらいあってもいい」と新澤さんはいう。

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 海外での消費が増え、明るい兆しもみえてきた酒造業界。だが新澤さんは、日本酒の消費量はこれからも減少し、酒蔵の淘汰(とうた)が進むとみている。

 「どの酒蔵も技術はかつてないほど向上していて、本当にレベルは高い。ただ、品質がよくなれば消費が増えるほど甘くはない。うちはがむしゃらに品質にこだわってきたからこそ、今何とかやっていけてる。結局、近道なんてないんだと思います」。(山口圭介)

                   ◇

 ■日本酒の輸出 財務省の貿易統計によると、日本酒の年間輸出量は平成19年、1万1333キロリットルで過去最高を記録し、金額ベースでは初めて70億円を突破した。輸出先は53カ国に及ぶ。米国への輸出が3割超を占め、アジアやロシアでの伸びが著しいという。日本酒輸出協会は「輸出されるのは純米酒や吟醸酒といった高級酒が中心」としている。

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