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【特報 追う】事故防げ!免許返納訴え 宮城県登米市
高齢ドライバーに運転を控えてもらい、事故を減らそうと、宮城県登米市は今月から、運転免許証を返納した高齢者に対してバスの無料乗車券などを交付する優遇措置をとる事業を始めた。免許の返納に訪れた人は、21日現在でわずか9人。高齢ドライバーが減らない背景には、車なしでは生活できない地方都市ならではの事情があるようで…。(今泉有美子)
優遇措置を始めた今月1日、同市役所には3人の高齢ドライバーが免許の返納に訪れた。そのうちの1人が佐々木寿さん(80)。今年2月、地域の老人会で開かれた交通安全教室で、高齢ドライバーによる事故が増えていることを知り、返納を決めた。
「同居する長男夫婦にも『代わりに運転してあげるから』と返納を勧められましてね。事故を起こしてからでは遅いと考えたんです」
佐々木さんの家は、田畑に囲まれたのどかな田園地区にある。近くにはJR東北本線のほか市民バスも走るが、いずれも本数が少ないため、日常の足には向いていない。車が重要な交通手段だった佐々木さんにとって、いざ免許を返納すると不便さは想像以上だったという。
毎年、田植えが始まるこの時期は、農業を営む長男夫婦が忙しくなるため、夕食の買い出しは佐々木さんの重要な仕事だった。そのほか、大好きなたばこを買いに行ったり、離れた場所に住む友人や兄弟の家に行く際も、交通手段として車は欠かせなかった。
「長男夫婦に、毎回運転を頼むわけにもいかないですしね。自転車に挑戦してみましたが、久々に乗ったらグラグラして車よりも危険でした。仕方ないので、外出を控えることにしましたよ」
登米市の人口は約9万人で、4人に1人にあたる2万5000人を65歳以上(平成17年)の高齢者で占めている。運転するしないにかかわらず、平成18年に市内で発生した交通事故の死者7人のうち高齢者が4人(57%)。19年は8人が死亡し、うち高齢者は6人(75%)に上った。
同市内に住む無職の伊藤智清さん(81)は、運転歴約60年のベテランドライバーだが、高齢者の事故が増えていると知り、免許の返納を考えていた。しかし、今年3月に妻(75)が家の中で転び、あばら骨を折って入院。病院には車でしか通えないため、免許の返納をやめて運転を続けていた。
安全運転には絶対の自信があった伊藤さんだが、妻の入院直後に事故を起こした。一時停止で、左右を確認したつもりで発進したところ、右からきた乗用車と衝突。相手の乗用車が急ブレーキをかけたため、大事故には至らなかったが、相手は顔に軽傷を負った。「確認したつもりだったのに(相手の車を)見落としていた。自分だけは大丈夫と思っていたが、その思い込みが一番危険なのかもしれませんね」と振り返る。
伊藤さんは事故を機に、長男夫婦の説得もあって免許の返納を決めた。長男夫婦は働きに出ているが、空いた時間を使って伊藤さん夫婦の送迎を快諾してくれたという。しかし、「うちは息子が同居しているから返納できるけど、老夫婦だけで住んでいる知り合いも少なくない。免許を返したくても返せないようです」と説明する。
伊藤さんによれば、近所に住む同級生夫婦は子供が県外で暮らしているため、交通手段は自分たちの運転する車だけ。夫婦そろって病院に通っており、老夫婦にとって免許は絶対に欠かせないという。「自分が事故を起こした話をして返納を勧めたのですが、『生活できないから』と言われてしまいました。いくら危険だといわれても、この環境じゃ免許の返納はなかなか進まないかもしれませんね」と伊藤さんは言う。
登米市の担当者は、「昨年度1年で返納した人は27人で、それに比べれば9人の返納は順調。今後も、高齢ドライバーに免許の返納を促していきたい」と説明する。車に頼るしか交通手段がない地方の事情もあるが、事故を起こしてからでは遅い−。登米市の試みは、高齢ドライバーの心に届くだろうか。
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【用語解説】宮城県登米市の運転免許返納推進事業
市内に住む65歳以上のドライバーが対象。運転免許返納者には、同市内の市民バス無料乗車券「あしがるくん」(有効期限1年)を発行するほか、身分証になる住宅基本台帳カードを無料で交付。同時に、返納に対する感謝状を贈呈する。