ニュース:地方 RSS feed
【特報 追う】甘く実るか「あおり21」 新品種リンゴ、登録ミスで“敵”に回る懸念
日本一のリンゴ収穫量(平成19年)を誇る青森県が開発した新種リンゴの“行く末”が、関係者の注目を集めている。県のミスで品種登録を抹消されたことにより、県外流出の可能性が出てきたからだ。このままでは研究成果を県外に奪われかねない。新種リンゴは青森県の農家の救世主となるのか。それとも県外からの刺客となって牙をむくのか。主力品種「有袋ふじ」に代わると期待される「あおり21」の今後を検証した。(荒船清太)
◇
10月31日、県は品種登録を抹消されたリンゴなど5品種の苗木を譲渡した全9業者に対し、苗木を県外に売らないよう求める協定を締結した。
農林水産省種苗審査室によると、品種登録が抹消されると苗木の譲渡や使用に際して育成権者の許可が不要になる。協定で業者の協力を得られれば、県は苗木の提供者として流通先を県内に限れると踏んだわけだ。
「これで基本的には大丈夫」と県農林水産部の有馬喜代史次長。品種登録と違って協定に強制力はないが、協定を結んだ苗木業者「原田種苗」の原田清晴社長は「抹消前から県外に売れないのは織り込み済み。協定を破る理由はない」と話す。「今回は県が苗木の利用料を取らないことになって得をした」(原田社長)ことも協力を引き出せたようだ。
ただ、協定が切れる5年後になると行方は不透明になってくる。原田社長は「すでに栃木、福島で産直販売する農家などから購入の相談を受けている。5年後には県外に売るつもりだ」と断言する。
■ ■
「あおり21」は実が堅く、貯蔵庫を使えば秋の収穫期を過ぎても夏ごろまで長持ちする年越し出荷用。「有袋ふじ」と違い、栽培時に果実を一つずつ袋で覆う必要もない。試験栽培した黒石市の農家も「年寄りにも栽培しやすく、素晴らしい品種になれる」と評価は高い。
5年後にはそれが県外でも手に入るかもしれない。だが、県外リンゴ関係者の反応は鈍い。
「年越し出荷は青森の独壇場。手を出しても得にはならない」と話すのは19年のリンゴ収穫量全国4位のJA全農山形(山形県)園芸部の長橋雅司さん。確かに20年の東京都中央卸売市場のリンゴの月別取り扱い実績をみると、1〜7月に同市場で取り扱われたリンゴの約95%が青森県産になっている。
山形県には20年ほど前、年越し出荷を試みて失敗した経験がある。冷蔵貯蔵庫を用意して出荷しようとしたが、卸業者に「青森と違って量が少なく供給が安定しない」といわれ、シェアを崩せなかったのだ。全国2位の収穫量を誇るJA全農長野(長野県)園芸販売課ですら「うちは年内に売り切るのが基本です」と関心は薄い。
■ ■
では県外流出の危険はないのだろうか。「品種登録がなければ、生産コストの安い中国が日本で同種リンゴを販売できることになる」。楽観論をこう戒めるのは農産物のマーケティングに詳しい東北大大学院農学研究科の伊藤房雄准教授。
中国は18年のリンゴ生産量世界一(農林水産省ホームページ)。現在は日本への中国産リンゴの輸出を阻んでいる検疫は「いつクリアされるか分からない」(伊藤准教授)。しかも「中国や韓国からこっそり苗木を買いにくる業者が絶えない」(原田社長)のが実情という。県は秘密裏に中国での品種登録と同様の制度への登録を進め始めた。
さらに「気象状況はいくらでも変わり得る」(伊藤准教授)ことが、新たな“脅威”を浮上させている。19年の収穫量が青森の2%に過ぎない北海道だ。
現在は北海道南部が北限となっているリンゴの栽培適地。それが地球温暖化の影響で西暦2060年には北海道全域に広がる一方、青森県の栽培適地が狭まる可能性がある、と独立行政法人果樹研究所は14年の報告書で指摘している。
リンゴは気温が低いほど長持ちしやすくなる。北海道に栽培が容易で長持ちする「あおり21」が渡れば年越し出荷の強力なライバルとなり得る。
「いつ、どう大化けするともしないとも分からないのが新種リンゴ」と有馬次長。品種登録抹消が、その見通しをさらに不透明にしたことだけは確かだ。
◇
■“もろ刃の剣” 新品種の生産を県内に限るかどうかは実は微妙な問題だ。JA全農山形の長橋雅司さんは「全国で生産させて知名度を上げる手もある」と指摘する。
確かに長野県が開発したリンゴ「シナノスイート」などは県外にも生産を促すことで知名度を上げた。山形県が開発したサクランボ「紅秀峰」など県内に生産を限定することで地位を確立した例もあるが、実際に試験栽培した青森県黒石市の農家は「生産者重視の『あおり21』は消費者には訴えにくい」として、後者の手法を支持する。
一方、開発した山形県の気候に合わず、北海道で盛んに栽培されるようになったサクランボ「南陽」の例もある。県外生産は“もろ刃の剣”のようだ。