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【特報 追う】「経済苦の自殺は救える」秋田のNPO法人

2008.6.7 02:21

 ■1人で悩まず…“経験者”親身に相談

 平成19年の自殺率も全国一となり、13年連続のワーストを記録してしまった秋田県。一方で同年の自殺者数は 417人で、 500人前後で推移していた例年より2割近く減少したことが県警の調べで分かった。厚生労働省によれば、19年は全国の自殺者数は2年ぶりに3万人を超えた。自殺が社会問題になるなか、秋田の自殺者減少の裏には、県や自治体の早くからの取り組み、そして民間団体の地道な努力があった。(今泉有美子)

                  ◇

 「経済問題を苦に自殺する人は、家庭や病気の問題で悩む人と違って、原因がはっきりしています。具体的なアドバイスで、救える場合がほとんどです」

 中小企業などの自営業者で、倒産危機といった経済苦から自殺を考える人の相談に乗るNPO(特別非営利活動法人)「蜘蛛の糸」(秋田市)の理事長、佐藤久男さん(64)はそう話す。

 佐藤さんが「蜘蛛の糸」を立ち上げたのは、平成14年。これまでの6年間で約 300件、述べ1300回以上の相談に乗った。

 佐藤さんの対応はシンプルだ。倒産に追い込まれている自営業者がいれば、まずは会社の経営状況などをじっくりと聞く。その後、不動産鑑定事務所を経営していた経験を生かし、民事再生法などの適用を視野に入れ倒産を回避できないか検討する。「不動産の運用方法を変えるだけで、同じ売り上げでも会社を維持できる場合もある。相談者のうち、1割はそういった方法で倒産せずに済んでいる」という。

 倒産しか道がない場合でも、事務処理の方法から気の持ち方まで、何度でも会って話をする。「倒産は、何十年もかけて積み上げた地位や財産を一瞬で失う。住み慣れた家も手放さなければいけない。そのつらさは、経験した人にしか分かりません。私も何度死にたいと思ったことか」と佐藤さんは振り返る。

 佐藤さんは県職員を26歳で退職し、一般企業で経営のノウハウを学んだあと、34歳で会社を立ち上げた。不動産会社や介護用品会社などを経営したが、バブル崩壊後に徐々に経営が悪化し、12年に倒産。

 努力を積み重ねて大きくした会社、市内の 120坪の土地に建てた家…。すべてを失った。妻の生命保険を解約し、8畳1間のアパートに無一文のまま転がり込んだ。降り積もる雪を見ながら、頭に浮かぶのは「死にたい」の言葉だけだった。

 「毎晩決まって2時になると、過去がフラッシュバックして目が覚めるんです。豊かだった昔の生活と惨めな現在が交互に浮かび、全身ががたがたと震える。死にたい、死にたいと叫んでいる自分が怖くて、般若心経を唱えながら木彫りの観音様を抱きました」

 そんな佐藤さんが立ち直り、NPOを立ち上げるきっかけになったのは、皮肉にも知人の自営業者の自殺だった。長い年月にわたって、地元の活性化に貢献した経営者が、なぜ破産ごときで死ななければいけないのか−。強い憤りを感じた佐藤さん、自分の経験を生かして自営業者の命を救おうと「蜘蛛の糸」を立ち上げたのだった。

 14年の県内の自殺者は 537人、うち自営業者は89人。佐藤さんは、「10年で自営業者の自殺を45人以下にすること」を目標に活動し、19年は64人にまで減った。「ネットワークは確実に広がり手応えを感じています。24年までには45人以下にしたい」と意気込む。

 「蜘蛛の糸」では、倒産の土壇場に追いやられた自営業者のほか、昨年からは同様に社会問題になっている多重債務者の相談も受け付けている。また、自殺防止などを目指す他の民間団体とのネットワークを広げ、シンポジウムなどを通じて「1人で悩まないで」と相談を呼びかけている。

 また佐藤さんら民間団体の活動と並行して、秋田では早くから県が自殺予防に取り組み、テレビCMなどで自殺予防を啓発してきた。最近では、市町村といった自治体も独自に自殺予防に取り組み、シンポジウムの開催も盛んだという。

 佐藤さんは「自殺は、身近な立場でないと食い止めにくい。秋田の成功は、自治体と民間の取り組みが功を奏した。私も体力が持つ限り、これからもこの問題に取り組んでいきたい」と話している。

 「蜘蛛の糸」の連絡先は(電) 018・ 853・9759。

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