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【特報 追う】環境無害なヤマビル駆除剤開発、産業振興も
■“吸血鬼”退治で一石三鳥
息を吹きかけると、かま首をもたげ、尺取虫のような動きで向かってくる。その薄気味悪い姿に肌があわ立った。近年、全国で大発生し、吸血被害が急増しているヤマビル。秋田県でも生息域が年々拡大し、秋田市内で遠足の子供たちが襲われる被害も出るようになった。音もなく集団で忍び寄るこのやっかいな吸血生物を一掃できないか−。秋田大学工学資源学部の村上英樹講師(43)が今月、食品添加物や珪藻土など環境に無害な物質を原料に、効果絶大な駆除剤を開発した。(宮原啓彰)
これまでヤマビル駆除に使われてきた市販の害虫忌避剤(DEET)は毒性が強く、大量散布やヤマビルの好む水源地では使用できなかった。環境に優しい高濃度酢酸や木酢液を使う方法もあったが「蒸発や雨水による流出で効果が持続しない欠点があった」(村上講師)という。
この欠点を補おうと、村上講師は今年5月から、北秋田市の珪藻土採掘会社など県内外の企業と共同研究を始めた。
注目したのはグミキャンデーに使われる食品添加物「カラギーナン」。カラギーナンはカリウムイオンと混ざると瞬時にゲル化する特性がある。そこで、肥料として使われる塩化カリウム溶液を散布した後、高濃度酢酸や木酢液を混ぜたカラギーナン溶液をまく方法を考案、環境に無害で効果の持続する駆除剤が完成した。
ヤマビルに直接かけ駆除することも、家屋や農地周辺にまく忌避剤としても利用できる。他の害虫にも効き、無農薬農業にも役立つという。
さらに、村上講師は吸水性に富む珪藻土に木酢液などを吸着させる方法も新たに考案。「秋田県は有数の珪藻土の産地で、商品化で秋田の産業振興にも役立つ」という。まさに“一石三鳥、四鳥”の2つの駆除剤は先月までに特許申請され商品化を目指している。
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実は村上講師は、ヤマビルの研究者ではなく鉱物学と地球科学が専門。「地質調査で秋田の山々に入ってきたが、ここ4〜5年、ヤマビルのあまりの多さに我慢も限界に達した」ことが駆除研究を始めたきっかけだ。
県秋田地域振興局によると、県内で初めてヤマビルが確認されたのは昭和52年の五城目町。以降、秋田市や潟上市など2市2町1村の人里で被害報告が寄せられている。
生息面積も平成4年は1万3300ヘクタールだったが、昨年は1万9460ヘクタールに拡大。比例して被害も増え、12年には住宅地で183人、山林で228人の計411人が吸血被害にあった。しかも被害者は報告のあった数に過ぎず「氷山の一角」(秋田地域振興局)とみられる。
以前は登山中や山菜取り中の被害が多かったが、近年は田畑での農作業中や風呂場など屋内での被害報告も目立つ。
ヤマビル被害の増加は秋田に止まらない。「約20年前まで被害報告は千葉など3県程度だったが、現在は神奈川や兵庫はじめ30府県に及ぶ」(村上講師)という。
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なぜ、ヤマビルが爆発的に増えているのか。医学博士で「ヤマビル研究会」(千葉県)の谷重和会長(60)は「里山の荒廃が進み、シカやタヌキが人里に頻繁に現れるようになった。そうした野生動物にヤマビルが運ばれ生息域が拡大している、というのが定説」と話す。
村上講師は、里山の荒廃に加え、もう一つの仮説を立てる。「中国大陸の工業化と比例するように、秋田での生息域が拡大したと感じる。大陸からの酸性雨、酸性霧の影響で環境が激変した可能性がある。実際、奥羽山脈を挟んだ岩手県側では被害が少ない」。
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新たな駆除剤ができたとはいえ村上講師と谷会長は「対処療法にすぎず、根本的な解決にならない」と口をそろえる。「里山の落ち葉拾いや下草刈りでヤマビルは激減する。里山に手を加えることが重要」と谷会長。
ヤマビルの増加は、現代人に対する大自然のしっぺ返しなのかもしれない。
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【用語解説】ヤマビル
ミミズの仲間にあたる環形動物。体長2〜5センチ。活動時期は4〜11月だが、寿命は2〜3年で、落ち葉などに隠れ越冬する。主だった天敵はいないとされ、従来は人里離れた多湿の草地や山間部に生息していた。頭側の吸盤の中央にY字型に3つの口があり、それぞれに細かい歯が70〜80個並ぶ。歯を使って動物の皮膚を傷つけ、血液を凝固させない物質や、痛みを麻痺(まひ)させる物質を出して吸血する。吸血量は最大で自重の10〜20倍。人への病原菌やウイルスの媒介は確認されていないが、ヤマビルにたかられた登山者がパニックに陥り転落する事故が発生しているという。