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【新響地】客員ロンドン特派員・葉加瀬太郎 「個」の力を信じたい

2008.10.12 03:32
このニュースのトピックス国会

 麻生内閣発足後初の国会論戦に注目が集まっている。ただ政治についての評論家のコメントはほとんど、誰かが言っていたようなことを繰り返しているように感じる。政治ばかりでなく、日本で街を歩く若者たちは流行を追いかけ過ぎて、同じような格好をしているように思える。まるでファッション雑誌を教科書に受験勉強でもしているかのようだ。起立、気をつけ、前へ倣え。そんな現代日本人の様相を、ロンドンという離れた場所から観察している僕が、今回は、それぞれの国民性がよくわかる、イギリス人の友人から聞いたちょっと笑える粋な小咄(こばなし)を紹介したい。

 小咄の設定は映画「タイタニック」のワンシーン。タイタニック号がいよいよ沈没、救命ボートに乗れる人数には限りがある。そこで指揮官は「女性と子供たちを優先して乗せていく」というアナウンスをする。そこにはありとあらゆる国の人々がいる。指揮官はそれぞれの国民性にあわせた説得力のある効果的な説明が必要だという場面。イギリス人を説得するにはどうしたらよいか。そのネタでは「女性と子供たちを救えば、貴方はジェントルマンになれる」というのが最も効くという。アメリカ人には「これで君もヒーローになれる」。ドイツ人には「そういう決まりになっております」。日本人には「皆さんそうしていらっしゃいます」となるのだ。

 先日ある酒席で、もし自分だったらどう言われたいかという話になった。僕を19歳のころから育ててくれたプロデューサーは当然のように「ヒーローがよい」といった。うん、納得。彼はアメリカが最も似合う男だもの。僕はイギリスびいきだからだろうか。「ジェントルマンになれる」と言われたい。「いや、いっそルールだって言われた方がいいだろう」と言ったのは大手銀行で勤務している友人だ。皆それぞれで面白い。

 コンサートをしていても世界中で聴衆の反応はずいぶん違うことを実感する。アメリカのコンサートではまだ何も始まっていない会場で、すでにお祭り気分が広がっている。1曲も演奏していないのに拍手喝采(かっさい)を受ける。聴衆がこれから始まる宴(うたげ)を一緒になって盛り上げてくれる。ヨーロッパでもラテンの国々ではそれぞれが勝手に楽しんでいる。ドイツやイギリスでは日本とよく似た感覚を味わった。コンサートをじっくり楽しみ、だんだんと一緒になって盛り上がっていく。

 今は日本全国をコンサートで回っているのだが、国内でも地域によって面白いほどノリが違う。西へ行けば聴衆のリアクションの速さに驚く。南へ行けば行くほど客席の暖かさが増していく。北へ向かうと静かだが熱いノリを感じる。東京は冷静だ。「何を聴かせてくれるの?」という雰囲気が伝わってくる。あー怖い。

 デビューして間もないころはずいぶんと戸惑うこともあったが、今はそれもコンサートを楽しむ大きな要素になっている。そんな地域の違いを同化させてはならないと思う。それぞれの「個」を互いに尊重する心こそがいちばん大切なことなのではないだろうか。

 日本人は「和」を大切にする民族であるといわれるが、もっと「個」の力を信じてもよいのではと思う今日このごろである。(はかせ たろう)

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