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【竹中平蔵 ポリシー・ウオッチ】国民の「おねだり」復活

2008.9.15 02:59
このニュースのトピックス国会

 ■日本は再び悪くなる

 政治と国民の間には、おもしろい関係がある。政治は国民の意思によって影響を受ける。影響を受けるというよりは、民意が政治を決める点にこそ民主主義の意義がある。しかし同時に、民意は政治、とりわけ政治リーダーの姿勢を見て大いに態度を変える。リーダーが自分たちに財政のカネを振り向けてくれそうもないと感じると、それを前提に行動する。小泉純一郎元首相が「痛みを超えて改革を」と訴えたときは、国民もそれを覚悟して行動した。逆に、政治が財政資金を振り向けてくれる可能性があると見ると、民間はそれを見抜いて、したたかに行動する。今の経済界が典型だ。経済界はことあるごとに改革の必要性を唱えながら、一方で迅速、大規模な経済対策を主張し、自分の業界の予算獲得に奔走した。取れるところからは取る…。民間は実にしっかりしている。

 しかし、そんな悠長なことは言っていられない状況になった。産経新聞社とFNN(フジニュースネットワーク)の最近の世論調査によると、構造改革を続けるべきだと答えた国民は37・2%。これに対し、思わないと答えた人は48・4%と半数近くに上った。実質的に6年ぶりの経済対策がとりまとめられ、定額減税まで行われようとしている。国民全体が、もらえるものはもらおうと考え、改革マインドを放棄しているかのようだ。

 実は8月初旬のフィナンシャル・タイムズに「日本の不況は不況じゃない」という興味深い記事が掲載されている。日本経済が悪化しているのは、改革の勢いが低下したからであり、それを元に戻せばいいだけだ−。経済対策など必要なわけじゃない−。こうした主張は、おそらく世界の日本経済に対する平均的な認識を代弁している。

 そうしたなか、自民党の総裁選挙が始まった。今回の選挙は、いくつかの点でこれまでと違う特色を持っている。皆が勝ち馬に乗るのではなく5人の候補が立候補したこと、それぞれに政策を掲げて論争していること、である。民主党から見れば、これぞ自民党の底力と映る面もあろう。しかし候補者の一部は、言葉を巧みに選びながらも、改革に否定的な主張をしているように見受けられる。厳しいグローバル競争が進展する中で、これに正面から向き合うことなく、当面の痛み止めの措置を理由に改革を緩めれば、日本全体が世界の中の負け組になる。このような危機感は、残念ながらなかなか見てとれないのである。

 国民が政府にさまざまな保護的措置を求め、政治が選挙を意識してそれに応じる−。政治が応じそうな気配を読み取って、国民がさらに措置を求める−。結局は「おねだり」と「ポピュリズム」の悪循環である。この悪循環が1990年代の「失われた10年」を生み出したという事実を、いま謙虚に反省する必要がある。

 ■政権交代と資本逃避

 こうしたなか、自民党総裁選で期待通り政策論争は深まっているだろうか。残念ながら答えは「ノー」である。そもそも今回の総裁選は、自民党にとって起死回生のチャンスだったはずだ。

 多くの国民は自民党の政治に失望し、この際一度「政権交代」を実現してもいいのではないかとまで思い始めている。また、改革が進まないことを見越して、自らは外貨建て資産へのシフトを進めている。いわば、「静かな資本逃避」が始まっているのだ。これを阻止する最後のチャンスが与党にあるとすれば、それは今回の総裁選挙をドラマチックなものにすることだ。しかし、そうなっていない2つの理由を指摘したい。

 第1は、候補者同士が必ずしも激しくぶつかり合っていないことだ。選挙である以上、違いをあえて強調する姿勢があってしかるべきだ。しかし現実に、「私の考えとA候補の考えに大きな差があるわけではない」とか「私も同様に…」といった発言が聞かれている。うがった見方をすれば、特定候補の優勢が伝えられる中で、総裁決定後のことを見越してポジション取りの発言をしているとも受け取られかねない。

 第2に、テレビ討論などで質問する側の問題もある。例えば、当面の経済対策一つとっても、そもそも各候補は日本経済の潜在成長率をどのように考えているのか、それとの関連でマクロの総需要追加が必要なのか否か、がまず問われなければならない。さらに消費税については、引き上げを実現するための前提条件は何か、それはいつまでにどのような形で実現させるのか、といったコンセプトを明確にした質問を投げかける必要がある。それだけで、政策の輪郭は明確になるはずなのに、これまでの討論では実現していない。マニフェスト選挙は定着したが、それを評価する側の力不足が明確になっている。

 もっとも、各候補の公約で興味を引く点もある。そもそも通常の政策決定の場合は、省庁審議会などで議論し、党の部会で討論し、政調会、総務会で決定する、といった複雑な手続きを経なければならない。しかし今回のように総裁候補者がある政策を公約に掲げた場合、当該候補が総裁・首相になればそれを実現せざるを得なくなってしまう。

 例えば郵政民営化は、通常のプロセスでは絶対に実現不可能だが、総裁候補が総裁選で公約した項目だからこそ実現可能になった。そうした観点から、小池百合子候補が国立大学民営化や国会一院制(議員削減)を掲げ、石破茂候補が国会議員歳費2割削減を公約に掲げている点は注目される。このような突破型のアジェンダに焦点が当たれば、政策の争点が明確になり、総裁選挙への注目も高まるだろう。

 残された総裁選挙の期間、激しくドラマチックな政策バトルが繰り広げられなければならない。さもなければ、国民はしたたかに政治に「おねだり」しつつ、裏で政権交代の実現や資本逃避といった形で、次への準備を本格化させることになろう。

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