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【土・日曜日に書く】特別記者・千野境子 ランブイエの精神を思う

2008.7.5 03:47
このニュースのトピックス北方領土問題

 ◆2回つづいたジンクス

 週が明けると主要国首脳会議(北海道洞爺湖サミット)が始まる。日本での開催は5回目、地方は前回2000年の沖縄に続いて2回目である。奇(く)しくも2回とも沖縄は小渕恵三首相が急逝、洞爺湖は安倍晋三首相が突如辞任し、選んだ首相は舞台に上れないというジンクスができてしまった。

 当時、逆転満塁サヨナラホームランみたいだった沖縄の選択が小渕首相の強い意志の賜物(たまもの)だったことは良く知られている。その頃(ころ)、那覇で開かれたシンポジウムに公務の合間をぬって飛び入り参加した小渕首相の沖縄への強い思い入れを、たまたま同席した私はひしひしと感じさせられた。

 洞爺湖はどうだったのだろう。当時の関係者の話からは、環境サミットにふさわしい美しい自然、警備上の勝手の良さ、北海道選出議員への配慮、そして夕張市破綻(はたん)に象徴される経済不振の北海道へのエールなどが挙がる。

 沖縄と同じく候補地レースでもっとも出遅れていただけに、洞爺湖が決まった時、「これは安倍首相の、対中外交の次は対露外交という暗黙のメッセージかも」と内心思ったが、「さあ、多少は意識されたかもしれませんが、小渕さんの沖縄ほどではないでしょう」とはある関係者の話だ。どうなんでしょうか、安倍前首相。

 ◆福田首相のすべきこと

 バトンタッチされた福田康夫首相は対露外交も北方領土も俎上(そじょう)に載せるつもりはないらしい。会議の流れを作る議長という8年に1度のチャンスに巡り合わせながら、もったいないことである。

 領土問題を持ち出すのは国益がぎらつきすぎると考えるのだろうか。そんなことはない。宮沢喜一首相はまだG7だった1992年のミュンヘン・サミットで「(G7終了後呼ばれた)エリツィン大統領に領土紛争があることは好ましくない。関係者はよく話し合ってもらいたいと言ってください」と議長のコール首相に頼んだ。

 「分かった」と答えた同首相は実際にそれを言った。「この話は日本がもっている一つのイレディンティズム(失地回復運動)だから、友だちとしては同情しなきゃいけないな、というのがほぼG7の人たちの立場」と、その間の経緯を2001年11月号の『国際問題』で宮沢元首相は語っている。事前に米英仏などの首脳に了解を求めたことはもちろんである。

 自国や世界の諸問題を首脳が自らの言葉で思いの丈を語る。「アーウー」の大平正芳首相は口数こそ少なかったが、深い教養と哲学に裏打ちされた言葉で感銘を与えたと言われる。1975年、仏ランブイエの小さな古城での語らいから始まったサミットの精神とはそうしたものではなかっただろうか。事務方はもちろん念入りにお膳(ぜん)立てする。それでも最後の味付けは首脳、いや首脳しかできないのだ。だからまだ十分間に合います、福田首相。

 沖縄でシェルパ(首脳の個人代表)だった野上義二前駐英大使によれば、洞爺湖はもっともサミットらしいサミットだと言う。

 なぜなら、世界経済、環境・気候変動、開発・アフリカと議題は実に多いが、それらが全部、互いに影響し、からみあう。サミットでも初めてのことだからだ。裏返せば、それは世界がいまや未経験の異例の事態に直面しているということでもあるだろう。

 原油高騰は資源争奪を呼び、資源争奪は地域紛争の温床となる。小麦やトウモロコシによる代替エネルギーへのシフトは食糧の不足や高騰を招く。しかも個々の問題はますます複雑で高度化し、連鎖の糸を解きほぐすことは容易ではない。

 そうした中での洞爺湖である。G8に先立ち日米首脳会談が行われる。周知のように米国は温室効果ガスの主要排出国でありながら、中印とともに削減義務がない。中印の扱いを不服として枠組みから離脱し、結果的に米中共同戦線の形になっているのだ。

 野上氏は「福田首相は温暖化問題で中国の陰に隠れるなと、米国にはっきりと言うこと。これ一つさえできれば、(サミットは)もう十分」という。その一つが最大のハードルなのである。

 ◆隠れたアジェンダとは

 洞爺湖に集まるのは史上最多の22カ国。3日間の日程で純粋にG8会合と呼べるのは1日しかない。これでサミットと呼べるのかとの疑問も不思議ではない。一方でサルコジ仏大統領のG13(中印南アなど5カ国をプラス)のように拡大論も浮上している。

 程度の差はあれ制度疲労が感じられるからだろう。いわば口にはしないが誰もが気にしている隠れた議題だ。だが拡大には拡散の危険が常につきまとうことをとりわけ日本は心しておきたい。(ちの けいこ)

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