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【今日の突破口】ジャーナリスト・東谷暁 日中外交は焦るべからず
現在、中国の胡錦濤主席が来日しているが、今回の日中首脳会談で日本にとって何か収穫があったかといえば、ほとんどゼロだろう。日本国民に衝撃を与えた中国製ギョーザ中毒事件や、世界中の注目を集めているチベット問題については、立ち入ることが前もって排除されていた。懸案になっていた東シナ海ガス田問題も、今回の首脳会談では決着をつけないことですでに合意していた。
この東シナ海ガス田問題については、最近の報道を読んで、中国が日本に妥協し始めているかのような印象をもっている人が多いかもしれない。たとえば、中国政府は昨年12月末の福田康夫首相と温家宝首相の会談で、東シナ海の日中中間線付近での共同開発を打診してきた。また中国政府は、この問題を国際裁判所に持ち込めば、中国側が主張している「大陸棚による海域」ではなく、日本側が主張している「日中中間線による海域」が正しいとされることを認めているとも報じられている。
しかし、中国政府が主張していることを注意深く検討すれば、妥協でも歩み寄りでもないことが明らかになる。たしかに、日中中間線近くの共同開発を打診してきたが、それは中間線の日本側海域でのことで、中国側海域での共同開発についてはまったく認めようとしない。また、国際裁判所なら日本が勝つだろうとの認識を示してはいるが、それは、現在の国際法が西欧でできたものだからだとも付け加えている。つまり、驚くべきことに中国政府は、いまもこの問題を近代以前の「華夷(かい)秩序」で考えているということなのだ。
このガス田問題については、胡主席離日後の方が難しい局面を迎えることになるだろう。いつの間にか日本国内には「たいした埋蔵量がないから大問題ではない」とか「天然ガスくらいいくらでも買える」といった、誤った認識が広まってしまったからだ。しかしまだ精査していない段階で埋蔵量の多寡が論じられるのもおかしな話だろう。また仮に埋蔵量が多くなくとも、海域をめぐる交渉で敗北すれば、国際社会における日本の政治的地位は下落し、安全保障問題においても著しく不利になる。
中国政府がみせている「歩み寄り」は、あえて例えればスーパーの「目玉商品」であって、500円の品物を1000円と表示して5割引きにするようなものだ。いや、この1000円を700円に書き換えて、さらに「いまなら600円でいい」と無理に押し付けているといったほうが適切かもしれない。今回のチベット問題にも見られるように、中国の宣伝外交はなかなか巧妙だ。たとえば、長野で聖火リレーが行われる前日に、ほとんどその気がないのにダライ・ラマとの対話を進めると発表するなど、好ましい変化が起こっているのではないかと思わせる、狡猾(こうかつ)な手法を使うのである。
しかし、そもそもの問題は、国際法を無視し、華夷秩序で自国の海域を主張して、沖縄トラフまで自国のものだと主張する中国の姿勢にある。日本はせっかく安倍政権の時代、日本側海域における日本企業の試掘を許可したのに、福田政権になるや、この決断をご破算にしてしまった。しかし、私たちは焦るべきではない。いまの政権が交代すれば、もう少しまともな日中外交が可能になるかもしれない。焦っているのは福田政権と、そして中国政府なのである。(ひがしたに・さとし)

