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【正論】新しい年へ 「徳育」あってこそ国は幸せ 大阪大学名誉教授・加地伸行 (1/3ページ)
順法だけでは道義心の再興はない
≪諸課題の根底にあるもの≫
謹賀新年。
年頭とあれば、雄大にして深遠な、未来への希望を語るのがふつうであろう。しかし、私は足元について語りたい。日本人の足が地に着いていないからである。「道は爾(ちか)きに在り。而(しか)るに諸(これ)(道を指す)を遠きに求む」(『孟子』離婁上篇)
昨年、私が経験したことから言おう。拙著が10年もかかって苦心して独自に訳したことばを、いとも簡単に剽窃(ひょうせつ)した者がいた。私はそれを指摘し批判した(昨年12月4日付本紙文化欄、大阪版は22日付夕刊)。
その者は、あろうことか、研究・教育を担う国立大学教授である。情けない。
これはほんの一例。今日の日本の最大課題は、国防でも社会保障(年金問題も含めて)でも経済活性化でも国会停滞でも石油高騰でもその他いかなる問題でもなく、ただ一点、諸課題の根底にある「道義」の確立である。それによってほとんどの問題は解決できるのではないか。
もちろん、道義の頽廃(たいはい)は今に始まったことではない。有史以来、心ある人々はこの問題を真剣に説き、その回復への提案をしてきた。遠まわりのように見えるが、その方法の一つが道徳教育であったことは言うまでもない。
そうした道徳教育の有効性がなかなか見えにくいのは事実である。しかし、有効性を問うことなく、道徳教育への努力が東西の歴史上、行われてきた。現代のわれわれもまたそれを行うべきである。
ただし、その方法や目標については、常に具体的に提案しなくてはならない。道義の回復を唱える単なる精神論では説得力がない。
約10年前から、私は大阪府人権施策推進審議会の委員を務めている。その一回目の出席において、私はこう発言した。「これまでの人権教育はまちがっていた」と。事務局、陪席者、傍聴者等を含めて50人はいたであろう満場が、しんと静まりかえった。息を呑んだ感じであった。そのような発言をした委員はいなかったからである。

