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【わたしの失敗】元首相・細川護熙さん(69)(4)
■ピアノの先生を“釘付け”
文武両道は、細川家の家風だろう。初代の幽斎はもちろん、2代の三斎以下、皆、能をたしなむ文化人だった。祖父・護立の時代には、屋敷の一角に能舞台まであったほどで、正月には一族郎党が集い、紋付き羽織袴(はかま)で謡い初めを行っていたという。
護煕少年と弟も小学校に上がるやいなや、能の謡(うたい)と仕舞の稽(けい)古(こ)をさせられた。「金春流の桜間金太郎先生が、稽古をつけに鎌倉まで見えていた」という。とはいえ、小学生が「花咲かば告げんといいし山里の…」などと教わっても面白いわけがない。先生が週に1度現れるたび、「あっ金太郎が来たぞ、逃げろっ」と、庭の植え込みに逃げ込んだりした。
さらにもう一つ、習っていたものがある。ピアノだ。習うことになった経緯はわからないが、とにかく嫌だったらしい。「小太りでひっつめ髪で、子供の目から見るといかにも意地悪そうな、中年の女の先生でした。今の言葉で『ムカつく』というんでしょうか、『そんなに引っ張ったら、指が裂けるやないか』と口答えしたり、抵抗を試みました」
極めつけは、先生がトイレに入ったところを見計らい、外から戸を釘付け。「破門」でやっとピアノから解放された。
しかし、人生は面白い。後年、熊本県知事として英国を視察したときのこと。招待された家で初老の婦人がいかにも楽しそうにピアノを弾くのを見て、無性に弾いてみたくなった。知事公舎近くのピアノの先生のところへ飛び込み、譜面も読めないのに「ショパンの幻想即興曲を弾けるように教えてください」と頼むと、先生は「それは幻想でしょう」とあっさり。
それでも、車で移動中に紙の鍵盤で練習するなど、忙しい公務の合間に猛特訓。「自分だけがわかる、独自の譜面もあみだした」というからすごい。2、3年でベートーベンの「月光」やアルベニスの「タンゴ」をマスター、アンコール用の数曲もモノにしたという。
物事にのめりこむ凝り性は、既に玄人の域にある陶芸を見てもわかる。「テニスにしろ陶芸にしろ、何でもずっと続いているんですよ。ただ唯一、続かなかったのがピアノ。熊本を離れてからはすっかり忘れてしまった。先生が近くにいないと駄目ですね」
たまに「あのひっつめ髪先生を釘付けにさえしていなければ、今ごろ…」と、華麗な指さばきを幻想するのだそうだ。=敬称略
(文 黒沢綾子)=おわり
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次回は映画監督の森田芳光さんです。