ニュース: 生活 RSS feed
【新響地】客員ロンドン特派員・葉加瀬太郎 愛や人生を彩る夜の街
ずっとコンサートツアーで全国を旅している。この時期になると街はどこもクリスマス気分一色だ。東京だけでなく地方都市でもメーンストリートを彩るイルミネーションは年々盛んになってきている気がする。僕はこのイルミネーションに飾られた夜の街が大好きだ。街中が宝石箱のように美しく輝き、まるでおとぎの国へ迷い込んだかと思ってしまう。昼間はごみごみとして辟易(へきえき)してしまう東京の街も、光のヴェールがすべてを忘れさせてくれる。
10年ほど前にニューヨークでクリスマスを迎えたことがあった。世界一有名なロックフェラーセンターのあの巨大なクリスマスツリーに度肝を抜かれたのを思いだす。高さは20メートル以上、何万個ものライトが飾られる。これは1931年ロックフェラーセンター建設当時、労働者たちが6メートルのツリーを飾ったことに始まる。今年で77年目。ツリーの下のスケートリンクとともにニューヨークのクリスマスを体感するにはうってつけの場所といえるだろう。
僕の愛するロンドンにも毎年巨大なツリーが現れる。ネルソン提督の像のあるトラファルガー広場だ。ニューヨークのそれと比べると派手さではまったく太刀打ちできないのだが、このツリーにまつわるエピソードもなかなか素敵(すてき)だ。このもみの木は毎年ノルウェーからはるばる贈られて来る。第二次大戦中、イギリスがノルウェーをナチスドイツから守ったことに対するノルウェー国民からの感謝の気持ちとして以来60年、贈り続けられているものなのだ。国家レベルでのこんな素敵な贈り物、なんだか心を温めてくれる良い話ではないか。
もちろんこのツリーだけではない。ロンドン市内もこの時期、街中が美しいイルミネーションで飾られる。ジョン・ルイス、デベナムスなどデパートの並ぶオックスフォードストリートは通り全部が大きなデコレーションケーキのよう。僕がいつもコンサートをするカドガンホールのあるスローンスクエアは枯れ木を彩る青いライトアップが雪の女王の森のようだ。
ただ東京とロンドン、クリスマス当日の過ごし方にはずいぶんと違いがある。
東京のクリスマスといえばやはり街に出掛け、ホテルでディナー、恋人たちはプレゼントを交換しあって愛を語らう。残念ながらそういった相手がいないとなると仲間と朝までどんちゃん騒ぎ。ロンドンの場合はそういう訳にはいかない。街の店は早々に閉店、レストランはおろか地下鉄も全面的に休業してしまう。みな子供たちを連れ、教会のミサへ行った後、家族でゆっくりと静かにクリスマスを祝うのだ。ロンドンの最も素敵な光景。それは友人たちを招いた家庭的なホームパーティーだ。キャンドルを灯し、心温まる料理を囲み、酒を交わし人生を語らう。クリスマスの夜はそんな彼らの最も静かな家族の夜なのだ。
今年は東京、アクアシティのクリスマスをプロデュースさせていただいている。白銀に輝く大きなクリスマスツリーは美しくお台場の夜を染めている。会場には沢山(たくさん)の僕の絵画、25日にはライヴ演奏もする。このイヴェントを一番楽しみにしているのはもちろん9歳になる僕の娘だ。(はかせ たろう)