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【から(韓)くに便り】ソウル支局長・黒田勝弘 東アジアの血縁事情

2008.12.4 03:18
このニュースのトピックス女性

 1970年代にソウルに語学留学したときの同窓生で、後に韓国女性と結婚した友人の話がある。結婚相手が時の大統領の遠い親戚(しんせき)にあたるため、大統領官邸当局から身辺を調べられたのだ。

 つまり結婚相手が大統領の遠縁だから、結果的に彼も大統領の縁戚ということになり「今後は大統領に迷惑をかけないよう身の処し方に注意してほしい」とクギをさされたというのだ。

 彼女と大統領は何の面識もない。お互いまったく知らない間柄だ。母方の9親等とか10親等とか、日本人にはちょっと聞いただけでは想像できない遠い血縁にすぎない。それでもその彼女と結婚した日本人の夫まで「親戚」として大統領官邸による管理・監視の対象になったのだった。

 ところがこの大統領は任期中、息子が金銭がらみの口利き容疑で逮捕された。「不徳のいたすところ」と血縁管理の手抜かりを国民にわびている。息子が父親の権力をかさに羽振りを利かせていたのを放置していたのだ。

 最近、李明博大統領の9親等にあたる男が「オレは大統領の親戚だ」といって詐欺をはたらき逮捕されたというニュースに接し、友人の話を思いだした。

 韓国人と話していると、日常的に各種の親戚を意味する言葉がしょっちゅう登場する。

 「イモ(母方のおば)」「コモ(父方のおば)」「ドンソ(相婿)」「オルケ(姉妹からみた兄弟の嫁)」「ヒョンブ(姉の夫)」「チョナム(妻の弟)」「チョジェ(妻の妹)」「シヌイ(夫の姉妹)」…無数に出てくる。

 こうした親戚の呼称への“こだわり”は、それだけ韓国社会における血縁関係の重要性や「血縁の情」の強さを物語っている。

 そして今、盧武鉉前大統領の実兄がやはり不法口利き容疑で検察の調べを受けている。この実兄は盧大統領の在任中から何かとウワサがあった。左翼・革新政権としてクリーンが売りモノの盧政権だったが「ブルータス、お前もか!」だ。

 1980年代以降、全斗煥大統領は実弟が、金泳三大統領と金大中大統領は息子がそれぞれ逮捕され、刑務所入りしている。権力層への群がりと権力乱用。血縁疑惑、血縁不正の繰り返しである。

 保守・革新、軍人・文民、旧世代・新世代…の違いは関係ない。代々、続いているのだからこれはもう“文化”といっていい。

 権力がらみでなくても韓国では「血縁の情」は圧倒的だ。この「情」は超法規的で、頼み頼まれお互い法を無視して面倒を見合うし、社会も人びともそれを黙認する。「法治国家ではなく情治国家」と皮肉られるところだ。

 日本人は過去、近代社会とは伝統的な「血縁の情」を断ち切ることだと教えられ、そうしてきた。そして法治国家を完成させたが、その代償として温かい「血縁の情」は失ってしまった。韓国社会は血縁疑惑が続く分だけ、人間的にはまだ温かい(?)。

 それにしても日本で小泉、福田、安倍、麻生と最近の歴代首相はいずれも世襲政治家だ。次期政権を狙う野党党首もそうだ。これはある種の“血縁政治”ということにならないか。

 血縁否定という過酷な近代化を選択した日本で、このごろなぜ血縁政治家なのだろう。近年の日本人はなぜ世襲政治、血縁政治を否定しないのか。近代化社会に疲れ、心安まる「血縁の情」に戻ろうとしているのだろうか。

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