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【産経抄】10月11日

2008.10.11 03:29
このニュースのトピックスノーベル賞

 嫁入りした娘が夫の横暴に耐えかね、子供を残したまま実家に帰ってくる。ちょうど十三夜である。それとなく察した母親は「旧弊なれど、お月見の真似(まね)ごとで団子をつくった。今夜来てくれてうれしい。昔のお前になって食べておくれ」とねぎらう。

 ▼樋口一葉の短編『十三夜』の冒頭である。離婚を決意し、いわば人生の修羅場にいる女性の心を、十三夜という古い習慣と家族の温かさがしばしほぐしてくれる。物語はこの後二転三転するのだが、文字通り「緊張の中の緩和」を感じさせる名場面である。

 ▼「十三夜」とは旧暦9月13日の夜のことだ。8月15日の「十五夜」と対で、この日も団子や栗などを供えて、月見を楽しむ。始まりについては諸説あるようだが、十五夜の月を見たら十三夜も月見をしないと「片月見」で不吉だということにもなっていたという。

 ▼もっとも、母親に「旧弊なれど」と言わせている通り、一葉が小説を書いた明治初期には十三夜はあまり行われなくなっていたようだ。裕福な嫁ぎ先でも月見などしていないらしい。つまり一葉は十三夜を、古き良き時代の「一家団欒(だんらん)」の象徴として描いているのだ。

 ▼今年は今日がその十三夜である。十五夜の方は9月14日、自民党総裁選の最中だった。十三夜までの間に、麻生太郎政権が発足したが、米国を震源地とする金融危機の大波を受け、株価暴落は一向に止まらない。解散・総選挙など吹き飛びそうな厳しさである。

 ▼ノーベル賞の連続受賞という朗報はあったものの、年金問題や家庭崩壊もあり、日本という国も今、修羅場にいるようだ。だから今夜ぐらい「真似ごと」で団子などつくり、一家そろって月見を楽しんではいかがだろう。お天気がちょっと心配だが。

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