ニュース: 生活 RSS feed
80歳の女性版画家の見果てぬ夢
「幕あい」の刷りを手に「トレースした文字を裏文字に書き、まわりを彫刻刀で彫った」とあっさりと語るが、文字もピエロの衣装もとても彫り物とは思えない精巧さだ=北海道岩見沢市の自宅アトリエ(撮影・対馬好一)さまざまな技法を駆使し国画会など権威ある賞を受賞してきた80歳の女性版画家が、集大成ともいえる版画集を初めて出版し、話題になっている。収録作品の中から8点が札幌市の札幌芸術の森美術館に収蔵されることも決まった。「次は中国・洛陽を訪れ、磨崖仏を彫りたい。1000体あるとも言われるので、何年かかることやら」と目を輝かし、夢は果てしなく広がっている。
この女性は、北海道岩見沢市の木村多伎子さん。小学生のころは、奔放な絵ばかり描き、学校では絵画の成績はよくなかったという。卒業後、油絵を本格的に勉強したが、娘さんが幼稚園で版画家に版画を教わったのをきっかけに、その作家に弟子入りした。
木版を使い、初めは1色刷りが多かった。昭和52年ころからは水彩絵の具を使った多色刷りで、12枚も版を作り、刷り重ねた作品もある。「残照」(53年作)は子供が遊んだ後らしいおもちゃや花が描かれ、「幕あい」(同)は浮世絵柄のズボンを穿いたピエロが座り込んでいる絵。いずれも背景には筆で書いたように見える細かい文字がびっしりと刻まれている。東京・神田で見つけた古文書を模写。「字を彫刻刀で彫ったことがわかるように、余白に彫り残しを少し作った」との工夫も。
「昔彫った絵を今刷り直すと、全くイメージが変わる。版画は版を彫るだけではなく、紙に刷って額に入れて飾って初めて完成する。だから、同じ絵を数枚しか刷らない」そうだ。技術に加え、心の中のものを表すものだともいう。
インドや欧州に毎年のように取材旅行に行った。気に入った風景を見つけるとデッサンしたり、夫に写真を撮ってもらったりして下絵を作ってきた。しかし、「今度の中国取材は自分で撮る。見たままを彫りたいから。そのために写真の勉強をしている」と、好奇心は果てることがない。




