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【産経抄】5月9日
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共同通信の記者だった辺見庸さんが、駅前広場の屋台に入ると、ブリキの大皿にご飯が山盛りになっていた。骨つきの鶏肉も載って、値段はわずか十数円。二口、三口、次に骨つき肉を口に運ぼうとしたとき、現地の案内人が叫んだ。「それは、食べ残し、残飯なんだよ」。
▼世界各地の『もの食う人びと』(角川文庫)を訪ねる旅のはじまりは、バングラデシュだった。辺見さんが思わず皿をほうり出すと、少年の細い腕が伸びてきて、奪い取っていく。首都ダッカには、残飯市場があった。辺見さんの「舌は恐怖におびえて硬直し、胃袋もまた石ころみたいに小さくこわばってしまって」いく。
▼昨年、牛肉の産地偽装などが発覚した大阪の高級料亭「船場吉兆」では、客の食べ残しを、残飯市場に出す代わりに、別の客に回していた。1人数万円の料金を払い、盛り直された刺し身や、2度焼きのアユの塩焼きを食べさせられたことになる。
▼「食べ残しではなく、手つかずの残された料理」。女将(おかみ)の湯木佐知子社長の弁解は通らない。再建を応援していた常連客も、さすがに開いた口がふさがらないだろう。使い回しの誘惑にかられるほど、食べ残しが出ることにも驚く。自分のお金で飲み食いしない、接待の客がそれだけ多いということか。
▼食料自給率が4割に満たない日本が、年間2000万トンもの食品を廃棄している。米や小麦など穀物価格の急騰により飢餓への不安が広がり、世界のあちこちで暴動さえ起こっているというのに。
▼「残飯を食らう者。大量輸入しては食い残す者。食の神様がいたら、間違いなく前者に涙し、後者には飢渇のなんであるかをいつか思い知らせるのではないか」。辺見さんの予言が不気味に響く。