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【逸品の美学】ル・クルーゼのココット かわいらしい実力派
コンロの上のその鍋を思い出すと−−中身が昨夜の残りのカレーでも−−ちょっと早めに帰宅したくなる。
機能に優れた圧力鍋はいくらでもある。でも、我がキッチンには愛用の赤のココットに居てほしい。それはたぶん、「幸せな家庭生活」の記号みたいなものだから。いや、記号というのは失礼。この鍋、かなり実力派なのだ。
まず、重い。材質は鋳物ホーロー。2つの砂型の間にドロドロに溶けた鉄を流し込み、冷やし固めた後、ガラス質のホーロー加工を施したもの。社名が「クルーゼ=坩堝(るつぼ)」なのもうなずける。重いフタが蒸気を閉じこめるから、シチューや肉じゃがといった煮込み料理が得意。比較的短時間で素材が柔らかくなる。しかも冷めにくい。
ル・クルーゼ社は1925年、ベルギー国境に近い北フランスのフレノワ・ル・グラン村で生まれ、今も変わらずそこに本社工場がある。日本法人広報の櫻井真海さんによると、人口3000人足らずの村で、約500人が同社の社員なのだとか。企業とはいえ、村で代々、その繊細な伝統製法は受け継がれている。
「時代に適応する努力もしています。例えばIH調理器に合うよう鍋底を水平にしたり。世界各国の食文化に合わせた製品も多いですよ」。すき焼きにぴったりの「ココット・ジャポネーズ」は、まさに日本人消費者の声をかたちにしたものだ。
ただし注意事項も。鉄なので当然電子レンジはダメ。ホーローはガラス質だけに強火はNG。欧州の家庭ではなじみ深い鋳物ホーロー鍋も、日本人への浸透はこれから。「外国人が日本の漆器の扱いに慣れないのと同じ。道具が、お互いの食文化への理解を深めてくれる」。小さな村のかわいいお鍋は、文化大使でもある。(黒沢綾子)

