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【産経抄】4月18日
このニュースのトピックス:情報通信業界
「女神の前髪をつかみなさい」。「テレビの父」と呼ばれた高柳健次郎が、若い技術者相手に好んで使った言葉だ。幸運の女神フォーチュンには、後ろの髪がない。先回りして、前髪をつかまないと捕まえられない。目先のことより、10年、20年先に求められる技術を見定めよ、というのだ。
▼自伝の『テレビ事始』によると、テレビ研究のきっかけは、米国で始まったラジオ放送だった。「無線で声を送れるのなら、映像も送れるのではないか」と考えたという。大正13(1924)年、新設の浜松高等工業に助教授として赴任して、本格的に取り組むことになる。
▼2年後の12月25日、実験室のブラウン管は、「イ」の文字を映し出した。世界最初の電子式テレビだった。学校の外では、号外の呼び声が「大正天皇崩御」を伝えていた。テレビの歴史は昭和とともに始まった。
▼当時のテレビは、穴の開いた回転円板を用いた機械式が先行していた。「機械式は、生まれてすぐに動き回れるようになるサルの子と同じ。電子式は人間の赤ちゃんのように、育児に時間がかかるが、成長すれば比較にならない能力を見せる」。高柳の主張が正しかった。
▼昭和21年に高柳を迎え入れた日本ビクターは、テレビ技術の名門として評価を高めてきた。51年に開発したVHSを家庭用ビデオの世界標準規格に導いた、高野鎮雄(しずお)ビデオ事業部長(当時)も、高柳の薫陶を受けた一人だ。
▼そのビクターが国内の家庭用テレビ事業から撤退するという。薄型テレビは、もはや技術よりコストの勝負、資金力のあるメーカーだけが生き残るというのなら仕方がない。高柳スピリットを受け継いで、あらたな女神を捕まえるしかない。ビクター技術陣の奮起に期待したい。