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【お江戸単身ぐらし】(131)人生渦巻く春の地下鉄 (1/2ページ)
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彼女は一体何にそんなに疲れているのだろう。都心を走る昼どきの地下鉄。前の座席で若い女性が泥のように眠りこけている。
いやいや、彼女が疲れている理由はわかっている。足を棒にして会社訪問を続けても、なかなか内定がもらえないのだろう。着慣れぬ黒いスーツに白シャツ、黒カバン、黒パンプスはお決まりのリクルートルックだが、シャツもスーツも少々くたびれ、彼女の奮闘ぶりを伝えている。
ひっつめにした黒い前髪がほつれて顔にかかったまま、地下鉄3駅を過ぎても目を覚ます気配はない。それでもどこかに緊張感が漂うのは彼女のたたずまいか、ひざの上に置かれたペットボトルのせいか。カバンにのせ、両手で大事そうに抱えているペットボトルはフィルムがない。飲み終わった容器を洗って何度も使い回しているのだろう。
下宿生だろうか。ボトルを持つ手の力がいまにも抜けて、ひざから転げ落ちそうだが、どうやらボトルが彼女のバランスを保っているようでもある。手の力が無意識に入る瞬間がある。
ふと目をやれば、彼女の横ではこれはもうイケイケの丸の内OLが体の力を抜いて雑誌を読んでいる。凝った織りのスカートをはき、流行のジャケットをはおり、胸元には大ぶりのアクセサリーをぶら下げている。おしゃれなビジネスバッグ。すらりと伸びた足を包むストッキングは、隣のリクルート娘と同じ肌色だが模様入りの高級品だ。でも、注意していると、彼女がめくっている雑誌の表紙は海外留学を勧めるものなのだ。ほおお、彼女も人生の岐路に立っているのか。