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【すごいぞ日本】ファイルI 円と球(2)砲丸が消えた! (1/2ページ)
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比重にムラのある鉄の塊を削って砲丸を作り、真ん中にぴたりと重心をあわせる。辻谷政久さん(75)の神業の秘密は何か。埼玉県富士見市にある辻谷工業の作業場で汎用旋盤に向かう辻谷さんに聞いた。
「音と光沢、それに手応えの3つです」
仕事の手を休め、辻谷さんが説明する。不純物の混じる鋳物の重さを外から確かめることはできない。だが、重いところは削るときの音が高い。逆に軽いところは低い。硬い部分の表面は光り、軟らかい部分は鈍い。そして何よりも重要なのは旋盤の2つのハンドルから手に伝わる感触だ。
「お豆腐を切ると、包丁の重さだけですっと切れるでしょ。でもカボチャは力を入れないと切れない。あれと同じですよ」
競技用の砲丸の素材は9キロほどの鋳物の塊だ。これを旋盤で削り、7.26キロの球体に仕上げていく。
「一度に100個作ります。14工程あるので1週間かかりますね」
大切なのは後半の仕上げの工程だ。耳と目と手の感触を総動員して微妙な比重の違いを見分けながら表面を薄く削っていく。研究を重ね、川口の鋳物工場でも体験的に働かせてもらってようやく身につけた技術である。「教えてもほかの人にはできません。経験で覚えなければ」という。
辻谷さんの砲丸が最初に採用された五輪は1988年のソウルだった。外国の砲丸は表面に色を塗ってある。辻谷さんの砲丸は素材のままだ。五輪後、競技ビデオを買って確かめたら、辻谷さんの砲丸を投げた選手は一人もいなかった。
外国製の砲丸を取り寄せて2つに割り、中を調べると、空洞があったり、鉛を詰めたりして重さを調節していることが分かった。辻谷さんのように旋盤で削るだけでぴたりと基準の重さにあわせ、しかも重心を真ん中に持って行くといった芸当はできないのだ。

