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【明日へのセーフティーネット】あなたの隣で(10)

2008.3.30 08:45
このニュースのトピックス「明日へのセーフティーネット」

◆竹中平蔵教授に聞く

 「格差」が当たり前に語られる時代。貧困とどう向き合い、将来に向けどのようなセーフティーネットを作り上げていくべきなのか。第1部の締めくくりとして総務大臣など閣僚を歴任した竹中平蔵・慶応義塾大学教授と、『格差社会』などの著書で知られる橘木俊詔・同志社大学教授に話を聞いた。

 □竹中平蔵・慶大教授

 ◆豊かな社会が知恵絞って解決

 −−現在の貧困についてどう捉えているのか

 貧困の実態も原因もわからないためにみんな不安に思っている。まず貧困調査を行い、どのような対策が必要なのかを明確にすべきだ。

 −−生活保護への不信感が強まっているが

 制度の否定ではなく、運用に対する不信だろう。現状では厚労省は「地方の窓口でちゃんとやっているはず」といい、地方は「国が決めた制度だから」という。自治体間で同じ基準で仕事が行われているかもわからず、責任の所在があいまいになっている。原則論では生活保護は所得再配分であり、国の仕事だと思うが、地方でやっている国もある。国民的な議論が必要だ。

 −−現在の生活保護の財政負担について

 「最後のセーフティーネット」である生活保護の総額をコントロールするという考え方はなじまない。きちんと財政設計して説明すれば、国民の理解はあると思う。支給水準についてはいろんな考え方があるだろうが、最低賃金や年金とワンセットで論じるべきだ。

 −−格差について、認識は変わったか

 変わっていない。デジタル革命という技術のフロンティアが拡大するなかで1990年代から世界中で格差が拡大している。放っておけば格差が拡大する難しい時代になった。フロンティア時代の一種の宿命だ。日本だけの問題ではない。

 ただ、格差の上の人の足を引っ張る考え方には私は反対だ。サッチャーがいったように金持ちを貧乏人にしたところで貧乏人が金持ちになるわけではない。所得を上げて高い税金を払う人は放っておけばいい。格差が問題なのではない。問題は貧困だ。

 −−貧困の解決策は

 貧困の要因はさまざまだ。いまはすべて政府の責任だというが、民間で対処できることも多い。たとえば、企業の社会貢献に対する税制を優遇すれば、有効な解決策の一つになるのではないか。教育を受ける機会をきちんと保障することも従来以上に重要になっている。私たちは全体として極めて豊かな社会に生きている。その豊かな社会が知恵を絞れば解決できる。

 □橘木俊詔・同志社大教授

 ◆場当たり的な改革しか見えぬ

 −−セーフティーネットの現状をどう考えるのか

 格差拡大はやむを得ないが、貧困層や負け組を立て直すためのセーフティーネットは充実させなくてはならないと、小泉前首相や竹中前大臣は言ってきた。しかし実際は逆になっている。

 生活保護については、現状の支給額が高すぎるとは思わない。ただ全体的にみれば削減の余地は一部にはある。本当にもらうべき人がもらえずに、必要のない人がもらっている例も一部にはあるだろう。しかし、財源が足りないから支給しないという考え方にはくみしない。足りないのであれば、ほかから財源を確保すべきだ。

 −−年金や雇用の問題をどう考えるか

 無年金者をなくすことが重要だ。私は15%の累進消費税(食品など生活必需品は別)によって、全額税方式で、夫婦で月額17万円、1人なら9万円の基礎年金を確保する政策を提案している。また、最低賃金より生活保護費の方が高くては働く意欲が失われる。できるだけ多くの人が働く体制に持って行くためにも最低賃金のアップは重要だ。

 −−格差についてどう考えるのか

 日本の貧困は深刻だ。貧困の固定化を防ぐには、格差の上の方を放っておくのでなく、多少税率を高くして、本当に困っている人たちに配分すべきだ。相続税の見直しや所得税の再配分機能を強化する必要がある。公教育の充実も必要だ。先進国の国際比較では、日本の公教育費は最低水準になっている。

 −−セーフティーネットの将来像は

 先進国を見た場合、自分のことは自分で面倒を見なさいという低福祉、低負担のアメリカ型と、特に北欧など政府が福祉施策を充実させている高福祉、高負担のヨーロッパ型がある。日本の国民は北欧の高福祉、高負担までは望んでいないと考えている。せいぜい中福祉、中負担の国に持って行くのが私の主張だ。

 政府と国民に信頼関係がないと国民は負担しない。保険料方式に固執すれば未納はますます増えるだろう。現時点では、政府から確固たる社会保障制度は提示されておらず場当たり的な改革しかなされていない。

        =おわり

 (第1部は堀洋、楠秀司、山口敦、河居貴司が担当しました)

     ◇

 この連載は産経新聞朝刊(大阪本社発行)に平成19年4月に掲載されました。

年齢は掲載当時のままです。

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