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【明日へのセーフティーネット】あなたの隣で(9) 家族

2008.3.30 08:42
このニュースのトピックス「明日へのセーフティーネット」

◆施設卒業の後で…孤立

 社会を構成する最小単位は「家族」だ。子供は生まれ落ちたその日から母親や父親に接することで少しずつ社会性を身につけていく。生活保護制度が国が保障する「最後のセーフティーネット」であれば、生まれたばかりの子供にとって家族は「最初のセーフティーネット」といえるかもしれない。

 しかし、さまざまな理由で家族を持たない子供たちも存在する。そんな境遇にある子供たちの多くは児童養護施設で育つ。

 児童福祉法に基づいて定められた児童養護施設の職員配置の最低基準は子供6人に対し職員1人。子供12人に両親がいるようなものだ。しかも、施設の職員の多くは子育て経験も少ない20、30歳代の若者だ。到底十分とはいえないこの施設でさえ、20歳までには自立して出ていかなければならない。

 児童養護施設は全国で約550カ所。約3万人の子供たちが生活している。こうした子供たちが生きていくにはさまざまな困難がある。

      ■ ■ ■

 平成18年9月。大阪市都島区の市長公館ホールに集まった参列者たちが新婦の入場を見守っていた。緊張した顔で、壇上に立つ新郎は18歳まで同市東住吉区の児童養護施設で育った塗装業の春木吉光さん(26)。両親がいるはずの春木さんの傍らには「後見人」として同市の関淳一市長がいた。

 大阪市が児童養護施設出身の青年を支援する目的で市長公館を貸し出した際の一シーンだ。

 春木さんは、物心ついたころから両親はおらず、いまも行方も分からない。身寄りは母方の祖母だけだった。施設からお盆と正月の年2回、祖母の家に行くことが楽しみだった。

 その祖母、楠本キヨ子さん=当時(77)=は17年3月、市営住宅1階の自室で殺されているところを発見された。春木さんはすぐに警察署に駆けつけたが、当時、無職で金銭的に困っていたこともあり、警察は現場に残された足跡と照合するためか、まず靴のサイズを春木さんに聴いた。

 約1カ月後に市営住宅の隣の棟に住む24歳のアルバイト店員の男が逮捕されたが、犯人は両親と暮らしている男だった。動機は金目当て。「誰にもすがれない人が、仕方なく犯罪にかかわる気持ちはまだ理解できます。だけど犯人は両親という頼れる人が近くにいた。何でそんなやつが金目的の殺人をする必要があるのか」。春木さんはそう話した。

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 頼れる人が周りにいるかどうか。孤独に包まれて生きている人にとって、この差は大きい。春木さんには、施設でともに育った友人が家族のようなものだ。誰かが職にあぶれて生活に困ると、働いている誰かがお金を貸してしのいできた。

 しかし、20歳のとき、その友達5人が、そろって無職になった時期があった。全員収入がなく、助け合うこともできない。1人が「区役所で相談にのってもらえる」と言い出し、みんなで区役所を訪れた。漠然と生活保護がもらえるかもしれないとも思っていたが「話だけでも聞いてもらおう」というのが正直な気持ちだった。

 区役所では、一人一人、ケースワーカーから話をきかれた。春木さんも施設育ちのことや、仕事が見つからないことを話したが、担当者は「あなたは働けるから生活保護は無理。帰ってください」と冷ややかだった。友人の一人が区役所中に響き渡るような大声で「お前は施設で育った者の気持ちがわかるんか」と怒鳴っていた。

 施設から巣立った卒業生たちの多くは厳しい環境のなかで、「必死に生活を守っている」と春木さんはいう。ただ、まじめに働いても、不慮の事故や病気に見舞われることがある。そうなれば目の前にすぐに「貧困」がある。

 生活保護の元ケースワーカーで、現在は児童相談所の児童指導員を務める社会福祉士の大山典宏氏(32)は「数多くの問題を抱えた子供たちが十分とはいえない環境の施設で育っていくのが日本の現状です。そして、その施設からも20歳までにほうり出される。外に出ても、保証人もおらず、住むアパートもない。誰の支援も受けられなければ、確実に生活保護予備軍になります。彼らを経済的に自立できる存在にどう育てていくのか。これはこの国の大きな課題です」と話した。

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