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【明日へのセーフティーネット】あなたの隣で(6) 低賃金
◆雇用と福祉 崩れる均衡
「そんな給料やったら生活保護受けた方がええんとちゃう」。大阪市内を走るタクシーの車内で運転手の山田篤志さん(49)=仮名=が、客からこんな「提案」を受けたのは1年ほど前のことだ。「どれくらいの稼ぎあるの」と問われた山田さんが答えた額は「250万円を超えるくらい」。実際、昨年の年収は272万円だった。
生活保護の受給は考えたこともなかったが、大阪のタクシー運転手の収入が自由化による過当競争の影響で激減し、平均では生活保護受給基準も下回っているというニュースを見て、客の言葉がよみがえってきた。
山田さんがタクシー運転手になったのは平成15年8月。2年前の13年8月、25年間勤めた電子計算機の販売代理店を退職した。役職が付く立場になってから3年連続赤字を計上し居づらくなったからだという。
当時の年収は約980万円。退職後、大阪府内の職業能力開発大学校に通い、職を求めたがなかなか見つからず、とりあえずという気持ちでタクシードライバーになった。
家族は中1と小3、5歳の男の子3人。妻は1日5時間パートで働く。月収は4、5万円。退職金2000万円は「あっという間」に底をつき、今は積み立てていた保険を解約して生活費の足しにしている。
ぜいたくといえば月に雑誌を1冊買う程度。そんな生活を続けるうち、意識が大きく変わったという。「もらえるものはもらっても…。生活保護も自宅を残して親族に迷惑をかけないのならば、ほしい」
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タクシー運転手らの労組「自交総連大阪地連」によると、平成7年の大阪のタクシー運転手の平均年収は436万円余りだったが、景気の悪化や規制緩和によるタクシー台数の増加、料金の値下げ競争の激化で14年には328万円に。大阪市の生活保護基準額(中学生と小学生の子供がいる4人家族モデル)は、14年が336万円だった。
タクシー運転手は大阪では60歳以上の人がほぼ半数を占める。平均収入と扶養家族を抱える世代の保護基準額を単純比較はできないが、あるタクシー会社の労組幹部は「もし、こんな厳しい労働環境でさらに収入が下がり、生活保護のほうが高くなるなら、運転手が就労意欲を失ってしまいかねない」と話す。
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静岡県内のメーカーに期間労働者として勤務する吉岡均さん(39)=仮名=も家族のために生活保護を意識している。現在の年収は約200万円だ。
吉岡さんが以前、期間社員として働いていた会社では、入社早々、事務所の裏でバイトやパート、派遣社員などを品定めする声を聞いた。「切るんだったらあっちの方からだよね」。「あっち」とは、自分のことを指しているのだと気がついた。今の会社でも、いつまで働けるか不安にさいなまれている。
「勝ち組になるために手段を選ばず行動する人もいます。じっと静かに嵐が通過するのを待っている人もいます。ただいえることは雇用の不安に、みんなおびえているんです」
貧困問題の研究者の間では、所得だけでみれば、本来、生活保護が受けられる所得水準であるにもかかわらず保護を受けていない人は、保護受給者の3、4倍に上るというのが定説になっている。資産も含めて考えても、生活保護受給者の背後には1・5〜2倍もの規模で、受給できるのに我慢している人の存在があるという。
我慢の理由は、そもそも生活保護についての認識が浸透していない、「保護を受けることは恥ずかしい」という国民意識などがあげられている。その一方で、単に受給のハードルを下げるだけでは福祉依存に陥り、財政が成り立たない懸念も強まっている。
年金や貧困問題について詳しい慶応大の駒村康平教授は「今の生活保護制度は、熱が出たら解熱剤を出すというシステムで、病気にならないように予防するシステムではない。受給者に対する自立支援政策は始まったばかりで、雇用と福祉の政策を一緒に行うことがこれからの大きな課題だ」と話した。