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【明日へのセーフティーネット】あなたの隣で(1) 脱出

2008.3.30 08:16
このニュースのトピックス「明日へのセーフティーネット」

◆依存と自立 葛藤する思い

 「変なプライドは捨てて子供のために生活保護を受けなさい」。5年にわたって夫の暴力を受け続けていた東京都足立区の吉野晴美さん(37)=仮名=が、児童相談所のケースワーカーから半ばしかられ、福祉事務所を訪れたのは平成18年4月だった。

 晴美さんと優良企業に勤める夫、15歳の中学3年から2歳まで5人の子供の7人家族は、夫のドメスティックバイオレンス(DV)で崩壊しかけていた。長男は暴力を恐れ友達の家を転々とし、たびたび補導された。

 決定的な出来事は18年2月10日に起こった。酔って帰宅した夫が自宅のファクスでめちゃくちゃに晴美さんを殴った。機械が壊れるまで止めなかった。晴美さんはジャージー姿のまま家を飛び出した。全身打撲で全治1カ月の重傷を負った。

 その後、DV被害者の一時保護所に入所したが、期限は3カ月。子供たちと暮らすため資金を得ようと昼間は金融機関で正社員として働き、夜はビル清掃などのアルバイト。しかし働けば働くほど子供との接点は少なくなった。長男はますます晴美さんから離れていった。そんな日常を変えたのは生活保護だった。

 19年1月、離婚が成立。子供たちも引き取り、現在は一家6人で暮らす。自転車に子供3人を乗せ保育所に連れていき職場に向かう。給与とほぼ同額の生活保護費の支給を受け、生活は落ち着き始めた。長男は最近、「高校に行ったら、アルバイトをして食費を入れる」と言い出した。「まだアルバイト先も決まってないのにおかしいね」と笑う晴美さん。家族で過ごす時間が少しずつ増えてきている。

   ■ ■ ■

 しかし、生活保護に生活の一部を支えられる暮らしを晴美さんは「落とし穴がある」と感じている。「仕事を辞めても生活保護で生きていける」。そんな思いが頭をよぎるからだ。「自立したいと思っていても、気力が萎えてしまう人が周囲に少なくない。このままでいいとあきらめる母親は驚くほど多い」という。

 「高校には行かない」という長男の友人に「仕事が見つからなかったらどうするの」と尋ねたことがある。「いいよ。生活保護受けるから」。そんな答えが返ってきた。彼の家も生活保護を受ける母子家庭だった。

 晴美さんは「子供たちに『お母さんは一生懸命がんばっているんだよ』と言い続けられる自分でいるためにも働き続けたい」という。自立への思いを支える理由はもう一つある。それは、DVや生活困窮、子供の問題などで悩む人たちと口コミで広がったネットワークの存在だ。

 現在、メンバーは約30人で生活保護の受給世帯も多い。メンバーの22の母子世帯のうち、夫側から養育費をもらっているのはわずか2世帯だ。

 「DV被害者が加害者のもとを離れ、自立するまでを支援したい。生活保護が受けられなくても資金援助ができるような基金も作りたい」。スポンサーを検討してくれる企業も現れ始めた。離婚成立で児童扶養手当などの受給のめどが立ち、今夏にも自立の可能性が出てきた。人の再出発を支援するためにも「自分が先例になりたい」という。    ■ ■ ■

 生活保護制度は「最後のセーフティーネット」と呼ばれる。その理由は高齢や病気、障害、1人親家庭などさまざまな理由で貧困に直面する人たちに手をさしのべる制度だからだ。

 高齢化が進み、離婚率増加などの影響もあって生活保護の受給世帯はすでに全国で100万世帯を突破し、過去最高を更新している。保護費の受給期間も長期化する傾向にある。さらに、フリーターや派遣労働など非正規雇用の増大が進み、年金の先細りが続けば、受給世帯は今後も増え続けると予想されている。膨らみ続ける財政負担に「すでに制度は事実上破綻(はたん)している」という自治体幹部もいる。

 それでも受給者のなかには晴美さんのように生活保護を支えに暮らしを再建し、貧困から立ち上がろうと葛藤(かっとう)する人の姿もあった。制度は機能不全を起こしつつあるが、破綻すれば立ち直ろうとする家族さえ見捨ててしまうことになる。専門家は、制度の行き詰まりが社会不安を増幅させていると指摘している。              

 「格差」が当たり前のように語られるようになった不安の時代は、すぐ隣に貧困がある。この現実にどう立ち向かい、次世代に何を残していくのか。制度疲労が指摘され、危機に瀕するセーフティーネットから、この国の未来を考えたい。

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