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【産経抄】12月11日

2007.12.11 03:30
このニュースのトピックス産経抄

 『フランダースの犬』といえば、ベルギーの小さな村を舞台に、少年ネロと老犬パトラッシュが数々の苦難に遭遇する物語だ。あこがれのルーベンスの名画の前で、寄り添いながら、凍え死んでいく場面は、涙を絞り出さずにはいられない。

 ▼1998(平成10)年に、ハリウッドで映画化されたとき、2種類のラストシーンが作られた。米国では悲しい物語は受けないという理由で、ネロが生き返るハッピーエンド版と、翌年に日本で上映された原作通りの悲劇版だ。

 ▼先週、氷点下を記録した茨城県ひたちなか市内の空き地で一夜を過ごした、73歳の認知症の女性と雄の中型犬の物語は、幸いなことにハリウッド版の方だった。犬を抱いた状態で保護され、家族のもとに戻った女性は、薄手のセーターとジャンパー姿にもかかわらず、風邪も引いていなかった。

 ▼猫や馬の家畜化が約5000年前に始まったのに対して、人間と犬の付き合いの始まりは、10万年前までさかのぼることができるそうだ。『種の起源』には、「犬の人間への親愛の情が、本能的となっていることは、疑いようがない」とある。

 ▼わざわざ、著者のダーウィンの言葉を持ち出すまでもなく、愛犬家なら、愛情深く育てられた犬が、人間の役に立ちたいと、いつも願っていることを知っている。「新聞報道を見た」と名乗りを上げた飼い主も78歳の女性だったと、小紙東京版は伝えていた。おばあちゃんの難儀を見過ごせなかったのだろう。

 ▼飼い主がわからなければ、野良犬として薬殺処分される可能性もあった。「情けは人の為ならず」の格言は犬の世界でも通用するらしい。連日伝えられる悲惨な事件で凍りついた心を、つかの間溶かしてくれるような話だった。

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