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【産経抄】12月3日
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鍋を仕切る鍋奉行には、それぞれの流儀があるように、食べる方にも流儀がある。少年時代の夫は、母親が勝手に、煮えた野菜や魚をタレのなかに入れたことに腹を立て、大げんかの末に家出したことがある。
▼その夫が今では、妻に同じようなおせっかいをやいている。先月30日の大阪版夕刊に「おせっかい」と題した読者のエッセーが載っていた。鍋からたちのぼる湯気のなかで、夫に流れる「思いやりの血」に目を細める作者の顔が目に浮かぶ。読んでいるうち、体の中がポカポカと暖まってくるようだ。
▼鍋ものの季節の到来である。寄せ鍋やすき焼きなどの定番に加えて、モツ鍋、豆乳鍋など新参鍋もすっかり定着した。今年は「カレー鍋」と「ブリしゃぶ」が、流行しているという。鍋ものには、熱燗(あつかん)が欠かせない小欄にとって、「ブリしゃぶ」はともかく、カレー味のスープには、しりごみしてしまう。
▼しかし、「『また鍋か…』と思っている子供が実は多い」という、きのうの生活面にあった指摘には、はっとさせられた。その子供たちが喜んで、野菜もたくさん食べてくれるなら、けっこうなことだ。鍋の味を決めるのは、何より家族の笑顔なのだから。
▼もっとも、湯豆腐だけは例外だという意見もある。「湯豆腐やいのちのはてのうすあかり」。一人鍋の悲哀を絶唱した久保田万太郎の傑作をふまえてであろう。妻は薬を飲んで死に、一人息子にも先立たれた。晩年には愛人をも失い、湯豆腐の句はその直後に作られた。
▼その万太郎に「よせなべ」と題した随筆がある。多彩な具を箸(はし)でつつく喜びを語った後で、「もとよりわが家のうちにあつてのけしきではない」と結ぶ。万太郎の鍋の流儀には、家族団欒(だんらん)はなかった。