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【主張】放鳥トキの死 野生復帰に非情さも必要
トキが死んだ。
佐渡島の山林で死骸(しがい)が見つかった。9月末に放鳥された10羽のうちの1羽である。先日、他の鳥に襲われ、けがをして弱っていた雌だった。
雄と一緒に行動し、来春の繁殖も期待されていただけに残念だ。
これから厳しい冬を迎える。本土ほどではないとはいえ、佐渡島には雪が積もる。トキの餌探しは難しくなるし、タカなどの猛禽(もうきん)類に狙われやすくもなるだろう。命を落とすトキが、今後も続くことが考えられる。
このトキの死を受けて、新潟県知事と佐渡市長は、環境大臣に要望書を送った。環境省の専門家会合が、厳冬期の暮らしもトキの自活力に委ねることにしている方針を「非情」とみて、その見直しを求める内容だ。
気持ちはわかる。しかし、野山に放たれたトキの一部が死ぬのは避けられないことなのだ。知事と市長は、放鳥トキへの「温かい対応」を望んでいるが、餌を与えたりすると、トキの健全な野生復帰は果たせない。
今回の試験放鳥の目的は、日本の自然界から一度は消えたトキを復活させるための基礎データの取得である。トキが日本の四季と自然の中で、どんな行動をとるかということさえわかっていない。
トキの生存率も今後の放鳥計画を立てるうえで、重要な意味を持つ。ここは、あえて心を鬼にして温かく見守る姿勢に徹したい。そうすることが、トキにとって一番の道であるはずだ。
今のトキに必要なのは「個体」の生命維持だけでなく、生態系の一員として生きていける「種」としてのトキの存続である。
自然界で、死のない生はない。この事実を忘れると、おかしなことになってしまう。
トキを食べた動物は、それで命をつないだ。野生復帰は、死ぬことも意味している。冬には餌不足に苦しむ動物が少なくない。それを乗り切ると、明るい繁殖の春が待っている。何羽のトキが冬を越せるか。結果によっては、次の放鳥時期を秋から春に切り替えることも考えるべきだろう。
環境省は、トキの野生復帰とそれに伴う死の意味を、国民に広くしっかり説明すべきである。子供たちに生態学の一端と命の重さを教える機会にもなる。膨大な税金が投入されていることも忘れてもらっては困る。