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【寒蛙(かんがえる)と六鼠(むちゅう)】論説委員 長辻象平 

2008.5.31 03:13

 ■アホウドリから学ぶこと

 かつて、この鳥は棒で次々と大量に殴り殺された。人と接触したことがないために警戒することを知らなかった彼らは「バカドリ」とも呼ばれた。伊豆諸島最南端の無人島・鳥島で子育てをしたアホウドリである。

 北太平洋全域に数百万羽いた彼らは、外貨をもたらす羽毛輸出のために明治の中期から乱獲され、一度は絶滅したと思われた。第二次大戦直後のことである。

 それから約60年−。

 太平洋に浮かぶ小笠原諸島の聟島(むこじま)でヒナから育った10羽のアホウドリの若鳥全羽が、初夏の潮風に乗って25日までに飛び立った。

 記念すべき旅立ちだ。10年以内に聟島が彼らの新しい繁殖地になる可能性を秘めている。

 大型海鳥のアホウドリが地面に降りるのは繁殖期だけで、それ以外は海上で暮らす。

 現在、繁殖に使われているのは鳥島と沖縄県・尖閣諸島の南小島と北小島だけである。合わせて約2500羽。生物種として地球にこれだけしかいないのだが、大部分が鳥島生まれの一族である。

 奇跡的に絶滅を免れた30羽ほどからここまで増えたのは、四半世紀にわたって鳥島に通い、アホウドリの復活とその研究に取り組んできた長谷川博・東邦大学教授の努力によるところが大きい。

 しかし、鳥島も問題を抱えている。この島が活動度の高い火山島であるということだ。繁殖期に噴火すれば、アホウドリは再び激減してしまう。

 そのリスクを回避するために山階鳥類研究所が今年2月に行ったのが、鳥島生まれの10羽のヒナを聟島に空輸して、そこで成長させて飛び立たせる計画だった。

 米国の魚類野生生物局が資金面でも協力して実現した。

 アホウドリは自分が育った島に帰ってくる性質があるので、やがては聟島が彼らの安全な繁殖地になると期待されているわけだ。

 こう書くと簡単そうだが、実際には何をするにも、たやすいことはない。たとえば10羽の内訳はメス6、オス4だが、外見からヒナの雌雄は判別できない。細胞の染色体で判別した。捕獲と空輸にあたっても、アホウドリのヒナの骨格はガラス細工のようにもろいので、細心の注意が必要だった。

 聟島での餌は、山階鳥類研究所の研究者らが親に代わって与えたが、感染症を防ぐためにトビウオとスルメイカの内臓を取り除いて肉をミンチにし、ビタミン類を別に補給した。約3カ月、研究チームは無人島でのテント生活に耐えてきた。雨の日も風の日もヒナを注意深く観察する。

 こうした半野生での飼育を今年を含めて5年間、続行する予定だが、資金の不安がつきまとう。

 ヒナはすべて無事に育った。5羽が太陽電池で作動する小型電波発信機を背中につけている。半年から1年の間は、人工衛星経由で彼らの現在位置を把握できる。

 若鳥が島に戻るのは4歳になってからで、繁殖に参加する年齢は平均で7歳。野生生物の研究には一定の年月が必要だ。世知辛い世の中で行われている根気強い研究活動が異彩を放つ。

 日本の科学研究は、国を挙げて短期成果を強調しすぎた結果、疲弊しかけているのではないか。

 それを再び上昇させるには、このアホウドリ復活のような研究を正当に評価していくことが必要だろう。世界に誇れる成果である。しかし、なかなか風向きは変わらない。(ながつじ しょうへい)

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