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【公教育を問う第5部国語力】(1)意見を伝える技術
「初対面の8人を相手に自分の意見をきちんと伝えることができますか…」
私立「つくば国際大」(茨城県土浦市)のコミュニケーション論の授業で、入部(いりべ)明子教授(比較国語教育学)は、裁判員制度を題材に講義を進めた。
プロの裁判官3人と市民から選ばれた6人の裁判員が刑事事件の裁判を合議する裁判員制。といっても、入部教授の授業は、専門的な法律知識を指導するわけではない。
指導するのは「考え方が異なる相手に自分を伝える技術」。テキストは入部教授の著書『その国語力で裁判員になれますか?』(明治書院)だ。
この日の講義で入部教授は「パワー・ライティング」と呼ばれる米国式の表現法を説明した。
意見に続いて根拠を、抽象的表現だけでなく具体例を示すことで説得力を出す方法で、陪審員制度がある米国では幼稚園、小学校の段階から学ぶという。
例えば、米イリノイ州の小学校では先生が「雷」(意見)と「雨粒」(根拠)の絵を使うほか、先生が「動物園の動物」と書けば、子供たちは「ゾウ」「トラ」「キリン」と具体例を挙げ、パワー・ライティングを学んでいく。
法廷で応用するなら、「無罪」だと思うなら、その意見を言い、根拠を複数挙げ、意見と根拠との関係を示した上で、もう一度意見を強調する。この表現技術を米国では幼少時から訓練していることになる。
論理的で説得力ある表現法は日本人の苦手分野だ。
「日本の高校生は、読んだことを根拠にして、自分の意見や解釈を表現することが十分にできない」。こう指摘するのは、国立教育政策研究所の有元秀文総括研究官だ。
経済協力開発機構(OECD)の国際学習到達度調査(PISA調査)の結果で、有元氏は記述問題での日本の「無答率」の高さに注目する。
2000(平成12)年から3年おきの調査で、読解力テストでの日本の無答率は22・0%→23・7%→24・8%と悪化。15%前後のOECD平均と比べ、10ポイント近い開きがある。
有元氏は背景に「教師が教科書を解説するだけ。生徒に意見表明をさせながら授業を行う技術が教師になく、その研修ができる人材も少ない」と指摘する。
PISA調査で合わせて行っているアンケートでは科学分野で「クラス全体でディベートや討論を行う」とした比率が米国47%、豪州41%に対し、日本は4%だった。
中高生の作文指導に長年携わってきた宮川俊彦・国語作文教育研究所長は「日本語は古典を例にしても主語があいまいで論理に適さない。無理やり論理的に書けば、つま先立ちをしたような文章になる」とした上で「裁判員制度や国際化の前では、論理的な文章力は外せない。両方を使い分けられるようになるしかないのではないか」と話す。
さらに宮川氏は国語力低下を顕著に感じているとし、「言われたことは書けるが、『僕はこう思う』ときちんと反論できる生徒が激減している」という。
入部教授の講義を受講した医療保健学部で看護師を目指す1年生、伊藤めぐみさん(18)は、「文章を書くのも人前で話すのも得意ではなかったが、パワー・ライティングの授業はリポート作りにも参考になる」という。
入部教授は「看護師のような重い仕事では、自分の意見に対して質問があれば、必ず根拠を述べられるようなコミュニケーションでなければ信頼を得られない」とし、「高齢化社会や価値観の多様化が進むなかで、コミュニケーション技術は、日本でも米国に劣らず重要性を増していく」と話す。
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漢字の書けない大学生やメールに熱中する若者の言葉の乱れ…。国語力低下が懸念される一方、国際社会では情報発信力も求められる。新学習指導要領では言語力強化が盛り込まれ、古典に親しむ授業も充実する。国語力は向上するか。課題を考える。