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【産経抄】12月8日
このニュースのトピックス:沖縄集団自決
奈良のお奉行といえば落語「鹿政談」の名裁きがある。きらず(おから)を食べた鹿を豆腐屋が犬と間違えて殺してしまう。鹿殺害は死罪というのが奈良での掟(おきて)だった。だが奉行は「これは鹿ではなく犬だ」と言いくるめて無罪釈放する。
▼その奈良の名物である若草山の山焼きの起源になったと伝えられる奉行の「裁き」もなかなかのものだ。東大寺、興福寺、春日大社の3寺社がこの山をめぐって領地争いをした。仲裁役の奉行は、境界をあいまいにするため山を焼いてしまった。それが始まりだというのである。
▼実によくできた話だ。だからだろうか、奈良県のホームページもこの説を「一般に信じられている」として「採用」していた。マスコミも毎年1月の山焼きを報道するとき「…といわれる」の形で伝えてきた。多くの人がそう思いこんでいたことだろう。
▼ところが、当の東大寺など3寺社が「そんなのは俗説」として訂正を申し入れたという。領地争いの事実は古文書にない。そうではなく、若草山に幽霊が出るという迷信があった。山を焼かなければ不吉な事件が起きると放火された。それが本当の由来だと主張している。
▼当否については何ともいえない。もし領地争い説が誤りだとすれば、問題はなぜそれが独り歩きしていたかである。3寺社は昔から奈良の3大宗教勢力でライバルだった。それだけに誰かが領地争い説を唱えると、みんなが「さもありなん」と飛びついたのかもしれない。
▼高校の教科書検定で問題になった沖縄戦の集団自決も「軍の命令・強制」とする確証はない。それなのにこちらも独り歩きしているのは「旧軍のことだからやりかねない」とする思いこみからだ。真実を語り継ぐことの難しさを思う。